選挙緊急速報 やってみた出口調査 60歳からのハローワーク4

―やってみた出口調査 60歳からのハローワーク4―

 参議院選挙がやってきた。短期就労のチャンス! すなわち、マスコミ各社の出口調査のアルバイトがある。時給は1200円前後で8時間労働が基本だ。私は前回の衆議院選挙では、某テレビ局と某新聞社のために働いた。読者にだけその実情をそっと教えることにする。

 

アルバイトをせざるをえない理由

 受け入れてくれる仕事がまったく見つからない。まれに面接までいっても、不合格が続く。逆に是非にといってくる会社もあるが、条件面で折り合わない。職務内容、勤務地、報酬が私の希望とまったく見合わない。たとえば、メキシコのハリスコ州での通訳業など、派遣会社が提示してきた報酬はなんと月20万円。海外での通訳業ならば、最低でこの3倍が基準。40年前の学生の頃、国内通訳バイトで日給4万円だったことを思い出す。

 

 こんなことをいうと贅沢だという人がいるが、だからこそ日本の給与は下がる一方で、労働者は自分で自分のクビをしめていることになる。このままだと、あと10年すれば日本は高度成長の続く東南アジアの首都の給与水準に負けることになるだろう。すると、呼び寄せた海外からの労働者も魅力がなく、自国へ帰ることになる。

 

 だから、武士は食わねど高楊枝

 

 といきたいところだが、このままでは経済的破綻は必至。そこで短期のアルバイトも探すことにした。必要条件は、反社会的ではない。十分条件は、健康によい、興味が湧く、最近の日本の実情がわかる、社会に役立つ、のいずれかとした。

 

 選挙の出口調査はこれらの条件を満たしている。

 

 期日前投票選挙は、公示日の翌日から投票日の前日まで行われる。今回の参議院選だと、7月5日~20日までとなる。マスコミは各派遣会社を通じて、7月7日前後~20日までの期日前投票と、投票当日の出口調査員を大量募集する。

 

 世代別の投票行動はどう違うのか? 保守的といわれる若者の投票行動はどうなのか?

 その一端を探ってみたい。 

 

某テレビ局への道 

 さっそくネットでアルバイト紹介企業を探し出し、某テレビ局の期日前投票出口調査に申し込んだ。すると、翌日には面接・登録にきてくださいという。なにせ大量募集なのだ。今度こそ合格するだろう。

 

 履歴書と職務経歴書を携えて、面接・登録へと出向いた。職歴の中で、偉そうに見える履歴は省いた。東京大学大学院卒のホームレスは、工場系の勤務などでは、正直に学歴を書くと雇ってくれない」とぼやいていたのを思い出したからである。

 

 行ってみると、予期せぬことにアルバイトなのに簡単な試験を受けさせられた。うーん、まともな大企業なのだ。調査系なのだから、正社員で勤務できないだろうか? そんな淡い期待もあり、30分ほどのテストに真剣に向き合うことにした。

 

 一般常識、算数、漢字である。私は試験にはめっぽう強く、海外で行われる仕事上必要な試験は、地元の人間が1時間でかかるところ20分で終了するぐらい要領がよい。けれども作家を自認し著書が10冊以上あるにかかわらず漢字を書くのは苦手だ。空間識別と形の識別能力が著しく劣っている。海外のテストに漢字はでない。

 

 やはり2つほど書き方の分からない漢字がある。そしてわざとのように係官が中座した。そんなとき、人はどうする? 当時私は『ファウスト』(ゲーテ)を再読していた。悪魔のメフィストフェレスに魂を売ったファウストは、人を殺す原因にさえなる悪事に加担する。私にもメフィストフェレスがそっと悪魔の囁きを…

 

検索機能を利用するぐらい許されてしかるべきではないか。仕事を得られるかどうか、金があるかないかは生きるか死ぬかに直結する。ホームレスの中には正直者ゆえにそうなったものもいる……

 

そっと携帯電話に手を伸ばした。

 

 こうして良心と引き換えに行ったサッカーのマリシアに等しい行為により、筆記試験はほぼ満点に違いなかった。歴代最高点かもしれない。

 

 次の面接は簡単で、外務省のように「こんなところで働くのはもったいないですよ」などと言われなかった。数日後、うれしい合格通知がメールで送られてきた。

ははは、ざまあみろ! 

そんな悪魔の囁きが聞こえてきた。

 

説明会

 就労日の10日程前に某テレビ局に出口調査に従事する精鋭50人前後が集められた。会場の席は、割り当てられた番号により決められていて、仕事に持参する黒カバンが置かれている。まずは中身の確認。腕章・携帯電話・調査員証・アンケート用紙の有無、自分の担当地域のものになっているかどうか。

 私の勤務先は自宅から30分ほどの住民センターである。住居のある同じ区は、見知った人間がいるなどの理由で、除外される。日時は、選挙前週の水、木、金の3日間の11:30~20:00。調査時間は12:00~19:30である。

 

 その後は、アンケートの取り方、携帯電話の利用法などの説明を受ける。紙で取った調査項目は、すべて携帯電話で報告するシステムとなっている。簡単な仕事だが、携帯の使用が嫌いだったり、小さな文字を読めない視力の弱い人には難しい。もっとも注意する点は、腕章、携帯電話、調査員証の紛失だという。説明会では交通費往復分が渡されたように記憶している。

 

調査の実施と調査項目

 前回の衆議院選挙では前週も当日も生憎天気の悪い日が続いた。本来建物の出口でアンケートを取ることになっていたが、雨の中傘をさしての応答は不都合である。そこで、選挙管理者は、室内での調査を認めてくれた。

 

 投票後選挙人はエレベーターか階段で階下に降りて来る。そこを、某テレビ局、某新聞社2社、某通信社のバイト調査員が待ち受け、彼らに駆け寄り、アンケートをとる。老若男女のバイトは、バイトなので譲り合いの精神で争うようなことはない。

 

 それぞれマスコミ各社により、休憩時間など微妙な差がある。予想通り、人使いが荒いと思われる新聞社は休憩時間も少なくバイトへの扱いは旧態依然だった。私が勤務した某テレビ局は、まずまずの待遇だった。

 

 土日ではないので、若者が来ることは少なかいのは当然としても、それでも日本が高齢化社会になっていることを実感する。車椅子の老人や杖をついている老人が実に多い。昼間には近所で勤務する若い建設労働者がちらほらし現れ、夕方6時を過ぎると仕事帰りのリーマンがやってくる。

 

 男女の別と年齢の別を聞き、内容に対する回答を得る。

 アンケートの内容はごく一般的なものだった。

 

1.投票するのに、最も重視する項目はどれですか。

原発の再稼働問題

森友学園の問題

北朝鮮のミサイル

憲法改正

・消費税値上げ

 

2.安倍首相に対していずれですか

・大好き

・少し好き

・ほとんど嫌い

・大嫌い

 

 これらを選んでもらい、最終的に携帯電話で、結果すべてを本部に報告するシステムとなっている(他に支持政党などを聞く項目もあったがそれは割愛する)。

 

 7時半に仕事が終わると、住民センターの集会場で最終集計を携帯で報告した。長時間の立ち仕事なので、足の筋肉が固まっている。隣で70代前後の引退した老人たちが将棋をさしたり、カラオケを歌っていた。羨ましい年金生活に違いなかった。

 

若者世代の特異な投票行動

 私は3日間で延べ180人強の解答を得た。平均60通/日となる。その結果を示す掲載のグラフを見ていただければわかるが、期日前投票・年齢構成を考慮しても、まさにシルバー民主主義国家となっていることが明らかである。また年齢差が大きく出たのが、北朝鮮問題だった。この年はしばしば北朝鮮がミサイル発射の実験をし、

 

“ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい。” 

 

 という総務庁が100億円をかけて作ったJアラートがテレビで鳴り響いた。直接の管轄は消防庁(私は担当者に取材しているがここではその詳細は述べない)である。もちろん、私はサムライの子孫なのでどこにも逃げ隠れもしない。日本に落ちた瞬間北朝鮮の政権は崩壊するし、さらに500キロ以上の上空を飛んでくるので領空圏とは言えない。

 

 若者は自身の生存に異様に敏感なのか、恐怖心が高いのか、あるいはより血の気が多いのか、他の年齢層よりも憤っているのか、歴史や現実の知識が欠如しているのか、そのいずれかであろう。またそのような層が投票に出向くとも言えそうである。

 

 安倍首相の好き嫌いはどの年齢層も50%とほぼ拮抗していたが、20~29歳の層だけは、大好きと少し好きを合わせて70%であった。

 

 なぜ、彼ら若者の投票行動だけ特異なのか? マスコミでは就職率がいいからと単純に解説しているようだが、私は、彼らが子供時代から中学高校にかけて経験した大きな出来事、すなわちリーマンショック(父母は影響を受けたに違いない)、東日本大震災民主党の稚拙な政権運営の3つに起因していると想像している。この件は機会があれば、もっと深く分析してみたい。

 

 

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期日前投票者の年齢構成

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北朝鮮のミサイル問題を最も重視する項目として上げた年齢別の構成比

 もし私が与党の選挙参謀であったならば、選挙の2週間前ぐらいの時期にナショナリズムに訴える政策を打ち出すとことにする。少なくとも、感受性の強い若者層の得票は上がる。

 

某新聞 投票日
 私は別の派遣会社からも某新聞社の選挙当日の出口調査のバイトをすることになっていた。こちらは、伊豆諸島の島も希望対象地域に入っていて、その場合は一泊分のホテル代が出る。旅行気分で楽しそうだと申し込んだのだが、残念なことに私の担当は家から数百キロも離れた水田に囲まれた関東の県境となった。列車とタクシーを乗り継いで2時間はかかる。前日の研修も実に遠い場所で行われたので、遠出のアルバイトである。


 選挙当日は朝4時起き。これほど早いアルバイトは、ずっと昔、短期ホームレス生活を送っていたときに、後楽園のドーム球場に行って巨人戦の切符をとるために並んで以来である。

 

 この調査で面白いのは、調査だけではなく、ほぼすべてがタブレトの中で完結していることだった。紙は一切使わない。目的地もモニター上の地図に矢印→で表示される。駅を降りてからのタクシーも用意されている。まるでスパイ映画の中の出来事のようだった。 


 調査先は2か所で、午前中は文化センター、午後は学校だった。この日も雨。文化センターは私一人だったが、小学校のほうは通信社にデータを送るバイトのおばさんが傘をさして軒下でアンケートをとっていた。


 私は選挙管理委員の人々と交渉をして室内でアンケートをとれるようにした。タブレットに結果を記入する調査項目は以下のとおりであった。

 

・安倍政権のままがいい
・他の政権がいい

・9条改正自衛隊明記に賛成
憲法改正に反対

・経済政策を評価する
・経済政策を評価しない

 

 私は100を越えるアンケートをとったが、この日はくたくたで、しかもデータを記憶するのも難しく、正確な記録はない。けれどもほとんどの項目が拮抗していたが、若干与党に不利な結果が出たとの覚えがある。そして、若者だけは明らかに与党寄りであったことも記憶している。

こうして私を含め、全国にちらばる何千人というアルバイターたちの労働のおかげで、新聞・テレビの事前予測、そして当日の当確が可能となる。

 

 さて、収入はというと、4日間でしめて約4万円。今回の参議院もチャンスだ。けれども冷静に考えると知事選を含めても選挙はそうそうあるものではない。しかも月4万円の臨時収入では、目標の金額からはほど遠い。定期的な収入を得る必要がある(続く)。

 

年収160万円からの脱出シリーズ

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