戦争史に刻まれる神風ドローンアタックー次の標的は日本関連施設か―

 9月12日の昼、私の足元にはスカイウォーにより捕獲されたとする小型ドローンが捕獲網に絡まれて転がっていた。その先にはイギリス企業とイスラエル企業がジョイントベンチャーで製作したイギリス陸軍の偵察用ドローンのウォッチキーパーがある。

 場所はロンドンのグリニッジ北、エクセル展覧会センターの広場。2年ごとに西側諸国を中心とする防衛産業の展示会(DSEI=Defense and Security Equipment International)が開催され、制服組を含め世界中から関係者が集まってくる。

f:id:latinos:20190912203942j:plain

 私が参加した主な目的は、いかにドローンによる攻撃を防御するかを探るものだった。2年前にフ―シー派がミサイルでサウジアラビアのプラントを攻撃すると予測していたが(参照 サウジアラビアでイスラム開発銀行に雇われてみた)、最近はアメリカ製やイスラエル製のドローンに何度も攻撃されている彼らが、今度は逆にドローンでサウジアラビアの施設を集中攻撃するのではなかろうかと疑っていた。それは世界にドローンテロ旋風を巻き起こす可能性がある。

 

 2日後、サウジアラビアのふたつの石油プラント、アブカイクとクライスが神風ドローン攻撃により炎上した。このドローンの攻撃がこれほどうまく行うとは思いもよらなかったが…… さて、この攻撃の前後で何が変わり、何が謎として残り、そして近未来はどうなるのかを考えてみた。

 まずは軍事用ドローンとは何かから始めよう。

 

1.軍事用ドローンとは

 もともと、イスラエルアメリカの企業が開発・製作した技術であり、中近東、アフリカ、アフガニスタンパキスタンなどにて、ここ20年近く使われてきた。最初は偵察用だったが、その後テロリストを捕獲・殺害する手段となった。映画「アイ・イン・ザ・スカイ」(https://www.youtube.com/watch?v=lvPVwwoWak4)で描かれたように、ドローンの操縦室は遠方、例えば米国や、あるいは他の国か該当国のどこかにあり、現場からは遠く離れ、映像を見ながら操作し、敵をヘルファイアなどのミサイルで殺す。人物を追う場合は、インテリジェンスによる情報を集め、分析し、目標を殺害するか、あるいは捕獲するかを決定する。

 燃料はリチウム電池、あるいは水素燃料電池で時速は150キロ~200キロ前後、航続距離は現在2000キロを越える。

 偵察・攻撃用としては有名なのは、米国のプレディター。夥しい数がテロ頻発地域や紛争地域の上空を飛び交っている。

 日本では、これまでプレディターが撃墜されたり、著名なテロリストを殺害したり、あるいは多数の民間人を誤認殺害した場合など、マスコミで報道されてきた。その扱いはまだ地味であったが、今回の攻撃は神風ドローン編隊が、重要施設・インフラを破壊する大規模なものだった。ドローン戦争の幕開けといえる。

 

2.ドローンを無力化するにはふたつの方法がある。だが…

 私の知る限り、ドローンを無力化する方法はふたつある。空中で網で捕獲するか、あるいは電磁波による妨害の2種類である。

 展示されていたスカイウォーは、照準器で上空に迫って来るドローンを捕らえ、ランチャーからカートリッジを発射する。するとそれは、ドローンを追尾し、カートリッジから網が出て、ドローンを空中で捕獲し、パラシュートが開き、ドローンはカートリッジとともに静かに地上に落下する。(https://www.youtube.com/watch?v=M6tT1GapCe4

 

 警視庁も似た迎撃ドローンを使っている。それは網をぶら下げたドローンがドローンを捕獲するものである。こちらのほうが安価で精度が高そうに思われる。

 DSEIではドローンキラーも展示されていた。こちらは、照準器で上空のドローンを捕らえ、ランチャーから妨害電波を放出し、ドローンの飛行を制御不能とする。日本の警察庁もこれと似た妨害電波を出すジャミングガンを所有している。

 

f:id:latinos:20190912195304j:plain

 いずれも1機、2機の小型ドローンには対処できるかもしれない。けれどもドローンが編隊で、10機、20機と訪れ、四方八方から同時にあるいはわずかな時差を置いて攻撃してきた場合、とても防ぐことはできない。しかもイラン製のドローンの価格と比べて、防御装備の価格は、少なくとも10倍はすることだろう。

 

 神風ドローン編隊を防ぐ手立てはほぼないのだから、今回の攻撃は、テロばかりではなく、戦争じたいも変えてしまう。かつて日本による真珠湾攻撃が、これからの戦闘が戦艦ではなく戦闘機が主体となることを示したように、今後はドローンが要となってくることをまざまざと示したのである。

それにより、中東のパワーバランスは大きく変わった。

 

3.現状のパワーバランス

 イランは2012年には「ドローンで2000キロの範囲を攻撃できる」と豪語していたが、フ―シー派の攻撃によりそれは事実であることが明らかになった。サウジアラビアアラブ首長国連邦UAE)の重要施設、中東におけるアメリカの艦船や基地もドローン攻撃の射程に入っている。一度、飛行してしまえばドローン編隊の攻撃から防御することは極めて難しい。ならば、ドローンを制御している司令部を発見しそれを破壊するか、ドローン製造工場を破壊するしかない。けれどもそのためには、ドローンによる偵察とヒューミントによる情報も必要である。けれどもイラン国内のCIAのスパイ網は全壊している。

 

 イランとフ―シー派が圧倒的に有利なのである。以前からイエメン、パキスタンアフガニスタンなどの紛争地では、テロリストではなくとも人々は自分の身を守るために上空を神経質に見上げなければならなかった。今はサウジアラビア人がそうする必要に迫れてしまった。

 

4.サウジは死の商人に騙され、巨額の金を失った

 サウジアラビアの昨年の武器購入額は650億ドル、約7兆円で、その大部分は米国からのものだという(ストックホルム国際平和研究所SIPRI))。最新のレーダー、パトリオットミサイルなど、最新兵器を大量に完備している。

 けれども国家の最重要施設に対する、安価な神風ドローン編隊を防ぐ手立てはないのだ。国土がドローンの人質になってしまったのだから、口巧みな営業マンに騙され、無駄金を使ったといえる。

 

 イエメン戦争はサウジにとっての泥沼のベトナム戦争であり、国防の脆弱性が顕になったことで、アラムコの上場にも影響が出るだろう。いつ攻撃され炎上するかもしれないプラントを持つ企業の株を誰が購入するのだろうか。

 

 一方、翻ってみると、日本もサウジアラビアと同様、アメリカの軍事産業のお得意さんであり、F35、オスプレイイージス艦、偵察用ドローンなど2兆円前後買いこんでいる。今後も大量の購入が続くが、同様に営業マンに騙されていると言えまいか。

 

5.狼少年となったアメリ

 トランプ政権はイランが下手人だといっている。イランから発射されたのが確実だと。けれどもアメリカにはふたつの前科がある。ひとつは、捏造されたナイラ証言である。すなわち、1990年当時のクウェート駐米大使の娘が偽名で「イラク軍兵士がクウェートの病院から保育器に入った新生児を取り出して放置し、死に至らしめた」と述べ、それが事実として広まり、アメリカは湾岸戦争に突入した。

 

 もうひとつは「サダムフセイン大量破壊兵器」を保持しているとのCIAの誤認情報である。それが米国をイラク戦争にかりたて、結果的にISの勃興を経て、現在のテロが覆う世界を作った。

 

 それらの前科に加え、トランプ政権の人望のなさ、信頼性の欠如が輪をかける。もしかしたら、イランがイラン・イラク国境付近からミサイルかドローンを発射したのかもしれない。が、誰も簡単には信じることができない。

 

 さらにイラン製のドローンやミサイルを使っている可能性が高いが、それを関与というならば、笑止千万といえる。それを言えばあらゆる戦争はアメリカが関与しているといえる。とりわけサウジアラビアは、イエメン人をアメリカ製の戦闘機、ミサイル、陸上兵器によって殺戮してきたのだからなおさらである。

 

それにしても腑に落ちないふたつの謎がある。(続く)