プーチンの最後 ーウクライナ戦争はすべてを炙り出すー(1)

プーチンの最後ーウクライナ戦争はすべてを炙り出すー (1)

 私はウクライナやロシアの専門家でもなんでもない。わずかにかかわったのは、旧ソ連に対応する首相向けの外交政策提言(「変貌するソ連と日本の対応」日本国際フォーラム)だけである。

 しかし、専門家といわれる人々が必ずしも正鵠を得ていずに、むしろ狭い思考回路故か過つことがある。それは今回もはっきりした。また、マスコミに携わる人々、市井の人々が声を上げなくてはこの国は過つ。それは先の大戦を振り返れば明瞭である。

 

 今、私の前にはMilitary Trauma Kit(戦時応急処置)の目録がある。出血止め、気道確保、銃創保護、切断器など命を守る器機一五品目のキット一式である。詳細は明かせないが、大量にウクライナに送る計画がある。兵士のみならず、子供たちにもこれが使わると思うと言語を絶する。

 一人の狂人とそのわずかな側近が世界を破滅させようとしているのだ。「アマゾンより人類の生存可能性を問う」を発表してから二一年が経過し、コロナウイルスとロシアのウクライナ戦争によりまさに人類の生存可能性が問われている。懐手をして座しているわけにはいかない。

 ウクライナ戦争にかかわる表明である。

 

 

1.ウクライナは負けない 国の出自を探れ

 アメリカとその情報を元とするマスコミは、早々キエフは陥落すると予測・報道していた。だがその予測は外れた。私は自身のfacebookにロシアの侵攻に対してもウクライナは簡単に負けないと書いた。なぜか? 

 知らない国を早急に知る秘訣があるからだ。とりわけ危機的状況では、それがあてはまる。それは投資、援助、戦争などのあらゆる事象に当てはまる。それは“国の出自に遡る” ことである。

 ウクライナは、コサックが作った国で、国民はその末裔を自認している。つまり出自はコッサクであり、その血筋を誇りにし、日本の武士の精神に近いと自らを見ている。だからこそ、コルスンスキー駐日大使は日本の鎧兜に身を包んだ。

 

 ウクライナには、コサックのヘーチマン国家ウクライナ語:Гетьма́нщина)が、一六四九年から一七八二年の間に存在していた。その正式な国号は、ザポロージャ(ウクライナ南部、歴史的地名)のコサック軍(Військо Запорозьке)である。

 

 ウクライナの作家ニコライ・ゴーゴリには、この時代のコサックの戦いを描いた『隊長ブーリバ』がある。私は小学校のころに児童文学でこの作品を読んだ覚えがある。本作はユリブリンナー主演でアメリカ映画(一九六二年)になっている。

 

 ただしゴーゴリウクライナをロシアの一部と考えていたので、ウクライナでは裏切者とされる。国民作家はウクライナ語で『コブザール』などのウクライナ語の詩作がある詩人・画家のタラス・シェフチェンコである。彼の作品にもコサックを扱ったものが多い。キエフ大学の正式名はタラス・シェフチェンコキエフ大学である。

 

2.ウクライナ国歌を是非きいてみよう。

 ウクライナ国歌はもともと一九世紀につくられたものである。それが国家として採用されたのは、ロシア革命が起こり、独立宣言した一九一七年である。その後ソビエト連邦に併合されたが、再独立後一九九二年に復活した。

この国歌は「ウクライナはいまだ滅びず その栄光も自由も 同胞よ 運命は我らに再び微笑むだろう」と始まり、こう続く。

 

我らが敵は日の前の露のごとく亡びるだろう。 兄弟たちよ、我らは我らの地を治めよう。我らは自由のために魂と身体を捧げ、 我らがコサックの氏族であることを示そう。我らは認めぬ 他者により支配を。

 

 自由という言葉が五度も使われ、「我らがコサックの子孫であることを」というフレーズが二度出てくる。この歌がどこの国に対して作られたのかは明白である。

 ウクライナ 国歌ウクライナは滅びず(Ще не вмерла України)」 

 

3.プーチンヒトラーと同じ精神状態だ

 ヒトラー第一次世界大戦に従軍し、敗北を経験した。

 ベルサイユ条約によりドイツ帝国は消滅し、領土の一部をベルギー、ポーランドチェコスロバキアなどに割譲され、多大な賠償金を課せられた。日本もこのとき、赤道以北ドイツ領太平洋諸島を委任統治することになった。ヒトラーは一九一八年の敗北の日から二〇年間復讐心を滾らせていたことになる。一九三九年九月一日に、自作自演の「ポーランド正規軍によるドイツ領のラジオ放送局への攻撃」(グライヴィッツ事件)、針小棒大にでっちあげたポーランド国内でのドイツ人への迫害、いくつかの要求に対する無回答などを開戦理由として、北部、南部、西部の三方面からポーランドに軍隊を電撃進軍させた。

 

 一方、一九九一年のソ連の崩壊はドイツ帝国の崩壊に匹敵する。冷戦とは米ソが銃弾を交えない戦いだったが、むしろ第三次世界大戦と考えたほうが納得がいく。敗北したソ連は、解体され、主権国家として次の国々が独立した。

 

アルメニアアゼルバイジャンエストニアジョージア 、カザフスタン 、キルギス 、ラトビアリトアニアモルドバタジキスタントルクメニスタンウズベキスタンベラルーシウクライナ

 

 社会主義体制に慣れ親しんだ旧ソ連国民は、自由主義経済の元、辛苦を舐める。ロシア人の寿命は五七・六歳(男)にまで落ちた。

 一九九五年よりKGB職員として東ドイツに派遣されていたプーチンは、一九八九年のベルリンの壁の崩壊を目撃した後、祖国に戻り、ソ連邦の解体とロシア国民の辛苦を味わうのである。ヒトラーと同様、三三年の間、復讐の爪を研いでいたに違いない。今回のウクライナ侵攻のやり口は、ヒトラーのやり口そのままである。なら将来はどうなる?

 

4.本当のナチは、相手をネオナチと呼ぶ

 ヨーロッパで誰がかつてのナチスに近いかは明白である。戦争犯罪者は、自らがナチであるのに、相手をナチと呼ぶ。プーチンにはそう呼ぶ理屈があるとする論理は、世界には通じない。これは私が経験したことだが、自国民を殺害するベネズエラの故チャベス、マドゥーロのファシズム政権は、民主主義勢力を「ファシスト」と声高に言い募っていた。

 

5.キエフ包囲で飢餓(ホロドモール)が起こったなら

 ロシア軍はキエフを包囲するつもりのようだ。補給路を断ち、兵糧攻めにするのだろう。ポーランドと結ぶ線路や道路も破壊されるかもしれない。マリウポリでは、すでに飢餓が始まり、赤ん坊が水がなく死去したという報道もある。

 思い出すのは、かつてのソビエト連邦スターリンが引き起こしたウクライナの人為的大飢饉(一九三二年~三三年)、即ち一〇〇〇万人以上の餓死者が出たともいわれるホロモドーロである。スターリンは農民の土地を取り上げ、集団農場化し、日本的にいえば極端に年貢をしぼりあげた。ウクライナとの境界は閉鎖され、飢餓の事実は隠された。

 

 この歴史は、二〇二〇年に日本でも公開された映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」で描かれている。わけあってフリーのジャーナリストになった英国人ガレス・ジョーンズ(史実)がウクライナに潜入する。そこで人肉食まで行われる悲惨な飢餓を見る。けれどもニューヨークタイムズのような大マスコミはそれを知っていて否定するのである。

 この犯罪は、日本では知られていないが多くの国でジェノサイドとして認定されている。また、ガレス・ジョーンズは満州国ソ連に暗殺さているのだから日本と係わりもある。

 

 再びプーチンは人為的飢餓というジェノサイドに手を染めようとしているかに見える。そのとき、NATOアメリカ、日本、国際社会はかつてのように黙って見過ごすことができるだろうか? 

 

3月10日記

 

続く

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2月25日 渋谷ハチ公前 ウクライナ支援集会