民主主義の根幹を揺るがしてきた政治家が民主主義の根幹を根こそぎにするテロの凶弾で殺害されるという、なんとも皮肉な結末となった。
死者を鞭打たずという慣例があるかもしれないが、それではマスコミは成り立たない。
政治家を含め一人の人間は多様な目がある。すべてを否定することもすべてを肯定することもできない。誰にでも功罪がある。
安部元首相の功は、外交だろう。日本のどの政治家もできないことを成し遂げたといっていい。
ーとりわけ、「開かれたインド太平洋」構想。中立の立場をとるインドを引き込み、アメリカを含め民主主義勢力を結集させる標語となった。集団安保もどちらかというと、功といっていいだろう。
ー扱いの難しいトランプ大統領と親密な関係を作ったのもある意味離れ業をやったといえる。
ー経済についてだが、アベノミックスは、金融緩和と円安で株高を呼び、そして大企業が一息をつけたということでは、良い面もあったが、それだけで終わった。これは中立だろう。ただ人口が減る日本にあっては、だれがやっても経済がかつてのように上向くということは難しい。しかも竹中、小泉のひいた非正規路線が貧困層を大量に生み出したので、その構造を変革するのは手遅れで難しい。移民局を作って優秀な移民を入れるしかないのだが、それも手遅れのように見えるし、日本国民は嫌がるだろう。
さて、罪のほう。これはたくさんある。
―途上国型政治家としてトランプのように国民を二分した。
―自分に票を入れない国民の命はないがしろにした(これはシリア戦争たけなわなとき、在レバノン大使館、シリア班との接触により感じた所感)。つまり他政治家や役人もそれに染まった。
―森友問題にみられるように縁故資本主義(えんこしほんしゅぎ、英: crony capitalism)を推進した。死人まで出している。
―マスコミに手を入れて、自分に都合の悪いことは報道させないようにした。
ところで、逮捕された山上徹也暗殺犯(41)は、任期付き元自衛官。独身、無職。まさに時代を反映している。
さて、選挙だが、この暗殺は投票行動に影響を与えずにはいられまい。また死せる政治家が短期的には政治を動かす可能性が高い。
国民の冷静な判断が求められる。