マハラシュトラ州 ボンベイ→ムンバイ マラティ語 990万人→1800万人
いわずとしれたインド映画の聖地である。カルカッタと似た都市問題があるが華やかな色を添えている。
ボンベイ港は西欧に向かって開かれている。植民地時代、イギリスのインド総督や高官はまずこの港に着いた。今は観光地としてボンベイ港に向かって立つインドの門が立つ。以前は公式儀典の式場として使われていた。地下鉄はカルカッタに譲ったが、鉄道、株式取引所、市電、市議会、電話などのイギリスの技術が最初に入った街である。
インドの商工業の中心都市であるが、最初の産業は綿の紡績工場。設立したのはパールシー教徒(拝火教)の商人ダワール、そして同じくパールシーのジェムシェードジー・タタである。それがタタ財閥の嚆矢となった。
ムンバイの国際空港からホテルへ行く途中には世界最大のスラム街と呼ばれるダラビの街が広がり、100万人前後が住む。『スラムドッグ$ミリオネア』なる映画の舞台になった場所だ。人々は零細な工場や商業に従事し、全体で数千億円の取引があるという。その他の地域を含めスラム人口は400万人前後である。現在市は再開発に乗り出そうとしているが、住民の反対も強い。
スラムと呼ばれているが、私には活気のある古い街としか思えない。学校、病院、商店、レストランもある。ふつうに老若男女が住んでいる。一攫千金を求めこのスラムにも金と職をもとめて他州からの移民がぞくぞくと集まってくる。
また、海外の起業家も発達するインドでの投資機会を求めて南部の高級住宅地へと押し寄せてくる。住宅費が著しく高い。ムンバイの海岸線に沿って広がるマリンドライブ、政治家や企業のトップ、ボリウッドスターたちが住むマラバー・ヒル、世界屈指の豪邸が並ぶアルタマウント・ロードなどなど。当時1995年であっても2寝室、応接間、キッチンつきの部屋が30万円から40万円、しかも保証金とともに一年分の家賃を前払いする必要があるなど、条件もよくない。現在は当時の何倍かになっているだろう。
一方、交通事故・渋滞、住宅不足、衛生の悪化、犯罪の横行(人事件はインド一)、売春の制度化、膨大な乞食やストリートチュルドレンが存在するのだから、まさに天国と地獄の街。すなわち、ハイリスクハイリターンの街であり、事業の競争は厳しく、かつこの街はアジアではなくヨーロッパを向いていることに注意が必要だろう。
タミル・ナードゥ州 マドラス→チェンナイ タミル語 540万人→900万人
マドラスはインドぽくない、ここは別の国だ。清潔なのだ。人々は自宅の前でトゥクトゥクや自家用車をピカピカに磨いている。海に近くさびやすいはずだが、赤さびに汚れた車はめったに見かけない。清潔好きな日本人のようだ。けれども、人々の肌の色は黒い。
ここはドラビタ民族の地である。もともと白い肌のアーリア人に南へ南へと押し下げられた人々であり、独特の文化を持つ誇り高い民族である。アーリア人の手になる「ラーマーヤナ」のなかで、南インドの地は悪鬼に支配されサルの住む土地とされているが、ドラビタは紀元前からタミル語の古典文学を持っている。
だからなのか、他州とりわけ北の州とは一線を画し、その意味では閉鎖的かもしれないが、民族の文化的同一性が保たれている。宗教心(ヒンズー教)が強く、供え物としての花を売るマーケットはいつ行っても混雑している。調査団が訪れた政府系機関の幹部の部屋は神様のブロマイドで埋め尽くされていた。
インドには指定カースト(Schedule cast=ハリジャン不可触)に企業や学校で割り当てがあるが、タミル・ナードゥは他州よりも割当てが多い。なお、スケジュールカーストのジャティは、トイレの清掃・汲み取り、清掃人、屠畜業者、皮革業者、 洗濯人などである。
マドラスは大都市ではあるが、ほっと息をつける街ともいえよう。早朝に浜辺にいけば漁師が地引網漁を営み、沖合には色とりどりの帆を掲げたカットウマラムという筏が漁に出ている。海辺は夕方からは市民の憩いの浜となり、夕涼みのカップルが多数散歩をしている。高温多湿で、4月、5月は毎日40℉前後になる。
この街に滞在しているうちに思い出した街がある。南米のパラグアイの首都アスンシオンである。熱帯の花々に囲まれ、首都にありがちな喧噪がない。もともとのグアラニー文化とグアラニー語が尊重され、文化同一性がほかの南米の国々よりも強い。極端な貧困は少なく、経済も通貨も南米では最も安定している。犯罪も少ない。
マドラスのドラビタの人々は寡黙であり、一見怖いような印象がある。けれども言動に不一致は少なく、他州と比べて政府機関も工業団地管轄当局も調査団に最も協力的であった。人々は共通の文化、伝統、道徳により結ばれており、信頼度が高い。日本人には最もつきあいやすい人々である。
さらに、マドラス港はアジアを向いている。(続く インド都市の投資順位、そしてスズキマルチ成功の秘訣)