グローバルサウスを実践するー世界潜入取材記ー

ボリビア低地カンバの女性の誕生日 豚一匹プレゼントしてね。えー!

バラの花のような彼女と

 二台のマイクロバスに分乗し別々のホテルに向かった。バスの中は会話は少なく、なにか侘しい雰囲気が漂っていた。試合に敗北した後のサッカーチームを乗せるバスの中のようである。明日も試合があるが、勝敗は不透明な不吉な運命共同体

 こうなったらビクトル・パスのように君子豹変するべきだ!

 

 私はむしろこの体験を楽しむことにした。空港で口をきいた彼女も他の友人二人とともに、同じバスである。

 天の配剤とはこのことか! 

 胸のなかに桃色の温かい空気が流れ込んでいっぱいに膨らんだ。

 ラブが用意したのは、空港近くの郊外にある三つ星の白亜のホテルだった。空港で夜を明かすことを考えると、悪くはない。

 チェックインを済ませ、二階の部屋でシャワーを浴びる。昼の一時にオフィスを出てからもう九時間になる。身体がというより、精神が疲労している。その疲労をお湯が流れ落としてくれる。

 さっぱりした気持ちで、ひどく遅くなった夕飯のために階下の食堂に下りた。

 

 ちょうど、彼女たち三人組がいて、その隣の席が空いている。私はさり気なく座り、ラブが用意したクーポン券で夕飯を注文し、その間、新聞を読む振りをして聞き耳を立てた。

 試験とか教授とか家族とかの言葉が耳に入ってくる。新聞の隙間から視線を流すと、私に話し掛けてきた彼女は、バラの花のように際立っている。ほかの二人はまったく記憶に残っていない。

 肉とジャガイモをメインとした料理が出され、私は空腹を満たすため、一気に胃袋に掻き込み、あっという間に平らげる。食後のコーヒーを注文すると、

「こちらにこない」

 とバラの花が誘ってくれる。

 

 そそくさと彼女らの席に行き、食後のコーヒーをいっしょに飲んだ。 

 三人ともコーヤだという。コーヤとは高地のインディオ系の民族のことである。

 私は、低地の熱帯雨林の中の小村に住んでいたので、自分をカンバの日本人と紹介する。カンバとは、スペイン系の血が濃い、低地に住む人間たちをいう。両者はしゃべり方も性格も文化もまったく違う。コーヤといえば、歌はフォークローレ、寡黙、まじめ、働き者で、山高帽を被ったいわゆる日本のテレビに出てくるアンデスの民である。

 

 カンバのほうは、歌は明るいコロンビアのクンビア、性格は、遊び好き、賭け事好き、怠け者、饒舌といったイメージである。互いが別の国と思えるほど敵愾心に近いものを持っていて、その感情は大阪人の東京人に対するものに似ている。だがその敵愾心の強さはその数倍。東京系大阪人とか東京大阪混血児なんて日本ではいわないが、ボリビアでは両者の間に生まれた子は混血でカンバコーヤと呼ばれる。

 

 彼女たちはアメリカに留学中で、休暇を過ごした後で戻るのだという。明日はマイアミから国内便に乗り継ぎである。私の目にとまった娘はルディアといい、経済学を専攻している。アイマラ系の血をひいていて、父親は純粋のインディオである。 

 

「運がよかったの。教会の奨学金をもらって。それじゃなきゃ留学なんてできないわ。あなたはなにが専門なの」

 私ははにかんでいう。

「大学じゃ、中南米の研究とかってことになってるけど、まあちょっとさぼってたから、よくは…」

「生粋のカンバってことね」

 彼女は笑いながら皮肉をこめていい、さらに聞いてくる。 

「今は?」

「鉄道を作ってるのさ、サンタクルスから四〇〇キロいったジャングルの中で」

 私はプロジェクト内容を掻い摘んで説明する。

「そう、援助の仕事ね。ヒーカ(JICAのこと。スペイン語ではこう発音する)はラパスでもいろいろやってるわ。今はチチカカ湖のマスかしら。わたしも卒業したら貧しいひとたちの幼稚園をつくりたい」

 

 ルディアは、メスの匂いを振りまくだけの熱帯の女とは違い、何か純粋で高潔な雰囲気を漂わせている。私が滞在している熱帯雨林の中の小村の会話といえば、誰と誰がつきあっているとか、あの歌は最高だとか、彼女の踊りはなっていないとか。ああ、飽き飽きする。新鮮な知的な会話が欲しい!

 彼女はちらりと腕時計を見て、

 

「明日は違う飛行機が来るとかいってるけど」

「なら、いいけど、多分同じじゃないかな、掛けようか!」

 これは失言だった。ちょっと揶揄するような笑いが彼女の顔に浮かんだ。彼女は続けた。

「マイアミまで祈るばかりね」

 

 翌日は早朝出発の可能性もあるので、早めに切り上げ、部屋に戻った。ラブから電話がありしだいフロントからモーニングコールがあることになっていたが、私はちょっとやそっとのことでは起きないタイプの人間だったので、フロントにもし起きなかったらドアを叩いてくれと念を入れておいた。

 

―ああ、神様、別の飛行機でありますように! それにルディアといいことがありますように!   

 そう、願をかけて眠りについた。

 ドアが叩かれたのは、早朝、やっと夜が明けようとする頃である。ドアを出るとフロント係りがいる。案の定、電話したが起きなかったという。バスはあと三〇分で出るというので、飛び起きて、慌てて朝食のパンとコーヒーを済ました。トイレにも行けない(続く)。