ミャンマー軍事政権とODA

誰も知らなかったビルマ

 ミャンマーに関する書籍を渉猟したが、第二次世界大戦の南機関(ミャンマー独立を後押しした)と白骨街道といわれるインパール作戦にかかわるものが多かった。少数だが、ネ・ウィンが指導するするビルマ社会主義(1962年~88年)の時代について書かれたものもあった。その中で、星占いに従って何度かいくつかの紙幣を急に廃止した、おかげで、資産を失った国民の怒りを買うとともに経済は大混乱に陥った、などという記載もあり、えーえーと驚いた。星占い独裁政権! 

 

 けれどもアメリカ元大統領のロナルド・レーガンの妻ナンシーさんが星占いに凝っていてレーガンもそれに影響されていたという記事をどこかで読んだ覚えがある。まあ、政策への影響度の違いはあっても、星占いに影響されているのは、先進国でもありそうだ。

 またネ・ウィンには高杉晋作という日本名があった。彼はアウンサンといっしょに日本の南機関に海南島で軍事訓練を受けた独立の30人の志士の一人だった。

 

 出張前の近々の情勢として最も役に立ち出色だったのは、通産省の当時の在ミャンマー大使館員 藤田正宏が書いた『誰も知らなかったビルマ』だった。1988年の動乱時にミャンマーに滞在し、そのときの様子を克明に描いている。

 1962年から26年間ネ・ウイン独裁政権が続いていたミャンマーは主食のコメ不足や民主化運動が結び付き、88年年3月から9月まで、ビルマ全土(まだビルマと呼ばれていた)で大規模な民主化デモが起き、陸軍や治安部隊が学生を中心に数千人を殺している。

 騒乱の中で、星占いのネ・ウィンが退陣し、一時民間人が首相についたが、軍部は9月18日にクーデター起こし、政権を掌握する。

 

 藤田は軍部と民主化勢力を客観的にバランス良く描いていた。たとえば、アウンサンスー・チーの初めての演説には「スピーカーの出力が弱く、演説の内容は演壇近くにいた我々がやっと聞き取れるくらいだった。原稿を淡々と読み上げるばかりで迫力は今一歩で、写真でみたよりも緊張のせいか疲れているように見えて、精彩がなかった」

 一方、こんな記述もある。

「ステージのそばでスー・チー女史の演説を聞きながら涙をポロポロ流して泣いている女子学生がいた。私の横にいた弁護士の話では、3月暴動の際逮捕され、ひどい虐待を受けた女性の一人で、今は反政府運動で活躍しているとのことだった」 

 

 スー・チー演説の日から政府は世界中の独裁政権が使う常套手段を試みる。すなわち、国内の刑務所を次々と解放し、囚人たちが街に出て犯罪を犯し、治安を一層悪化させるのである。民衆は自警団を作って犯罪から防衛する。治安維持のためには、軍が出るしかない状況を作るのだ。ミャンマー軍は外国の敵と戦うのではなく、国内の民主派を弾圧し、国内の他民族と戦うための装置である。

 

 残念なのは、『誰も知らなかったビルマ』は絶版なのでもう手に入らないことだ。図書館で借りるしかない。さらに著者の藤田のその後をネットで確認すると、住友商事を経て現在は石油資源開発株式会社の社長となっている。(続く)

ミャンマー軍事政権とODA

ミャンマーの家族 チェリーときもったまかーさん

ミャンマー軍事政権とODA

 ミャンマーに関する記事がよく掲載されている。言論人が書くミャンマーの歴史や現状については、何か変なところがある。読んでいると隔靴搔痒の気分になる。それは多分、軍事政府のお偉いさんに会ったり、ヤンゴンしか訪れないからかもしれない。戦前から日本人はミャンマーを見誤ってきたように思う。

 また、ビジネス界は投資を再開したくてうずうずしているように見える。いいのだろうか? あるいはどのようなものならばいいのだろうか? 

 

 今、「顔面蒼白漂流記」ー冒険の作法ーを書いている途上だが、そのうちのミャンマーにかかわる部分を一部公開・連載しようと思う。今に続く歴史の一端である。軍事独裁政権時のチリ、現在のベネズエラに係わった私は、独裁政治とは何かを身体で経験している。

 

 私の手元には、1996年3月発刊の『ミャンマーの情報化・人材育成に係わる調査報告書』(CRC総合研究所)と伊藤忠商事発行の『Global Sensor ミャンマー/輝ける未来への道標』(1996年3月)がある。いずれも星霜を経て表紙が変色している。

 後者の巻頭には高原友生(当時CRC総合研究所会長)の「ミャンマーの座標軸」、その後には、当時のミャンマー大使山口洋一の「活力に満ち溢れるミャンマー」、そして桐生稔(中部大学国際関係学部教授 当時)の「文民体制実現は国軍の使命」と続き、巻末に「ミャンマーに情報産業?」なるコラムがある。署名はKK。私の本名のイニシャルである。ミャンマーの現状を直視するに、歴史はどんな教訓を語ってくれるのだろうか?

宝石と政治犯の妻

 1992年より私は伊藤忠商事系の今はなきCRC総合研究所で援助と投資のコンサルタントとして勤務していた。主な担当となった国は、チリ、ミャンマー、インドだった。いずれも3回訪れている。その他、グアテマラホンジュラス、中国、香港、サウジアラビア、トルコ、マレーシア、ソロモン諸島マーシャル諸島を現地調査する機会を得た。

 今回はミャンマーの話である。93年の年初に突然ミャンマー案件が降ってわいてきた。

「海外にいて知らないかもしれないが、3,4年前はひどい動乱があったんだよ。今は静まっているみたいだけどね」

 私の上司にあたるずっと年上で大酒飲みのMがいった。彼とは飲み仲間で、「もう一杯」「もう一杯」と飲みだすときりがない。チリにもいっしょに出張したが、到着するまで機内で飲み続けで、着いたときにはべろんべろんになっていた愛すべき酔っ払いである。

 調べてみると、1988年~89年にかけて学生を中心とする民主化運動が軍に弾圧され、数千人が殺害されたようだ。動乱の最盛期は88年8月前後だという。なるほど、ニュースを見たり読んだりする余裕はなかった。私はブラジルの黒人のローマと呼ばれるバイアサルバドールで身ぐるみはがされ、無一文無国籍になっていた。

 日本にいる日本人には、動乱のミャンマーの記憶があるようだった。

 ミャンマーは1993年当時も軍事政権だった。アウンサンスー・チーは1989年から自宅軟禁されたままだ。

 担当となった私のところにはミャンマー関連の近々の情報が集まってきた。この年1月から始まった新憲法策定のための国民会議の状況、投資関連の法律、地方での軍とビルマ族以外の民族とりわけカレン民族同盟との内戦など。こうして事前調査をしているうちに疑問が二つ湧いてきた。

 ビルマ族以外は少数民族と言われたり書かれたりしている。だが、変だ。推計ではあるが、たとえばカレン族350万人、シャン族200万人、カチン族155万人、モン族100万人。これらは主な人々だが、ミャンマーには総計135の民族がいるというのだから、人口5000万人ほどの国で、少数とはいえないのではないか。

 

 またその当時ビルマミャンマーか、国名はどちらがよいかとマスコミで話題になっていた。ビルマミャンマーの英語訛だという。日本がジャパンと呼ばれるのに似ている。日本は日本国が国名である。だが、国際大会ではジャパン、パスポートの発行国はJPNと記載されている。

 英国やアウンサンスー・チーは軍政が変更したのはけしからんとしてビルマと呼ぶ。だが、アウンサンスー・チーはともかく、植民地宗主国であった英国やBBCが何をかいわんやである。分裂して統治せよの成功例がミャンマーである。中国人やインド人をビルマ人の上におき、カチン族やカレン族キリスト教化し、憎悪の矛先は、自身に向かわないようにした。それは大成功で国内にいっそうの火種を作った。

 『1984』や『動物農場』の作品がある英国人作家のジョージ・オーウェルは1922年から5年間ビルマで勤務している。その時の植民者イギリス人の欺瞞や尊大さに嫌気がさし、処女作『ビルマの日々』を書いている。この経験は彼の作品に色濃く反映されている。

 私は早々、ミャンマーのほうがいいと考えるようになった(続く)。

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安倍元首相の暗殺で政治家の功罪を振り返る

民主主義の根幹を揺るがしてきた政治家が民主主義の根幹を根こそぎにするテロの凶弾で殺害されるという、なんとも皮肉な結末となった。

 死者を鞭打たずという慣例があるかもしれないが、それではマスコミは成り立たない。

 政治家を含め一人の人間は多様な目がある。すべてを否定することもすべてを肯定することもできない。誰にでも功罪がある。

安部元首相の功は、外交だろう。日本のどの政治家もできないことを成し遂げたといっていい。

ーとりわけ、「開かれたインド太平洋」構想。中立の立場をとるインドを引き込み、アメリカを含め民主主義勢力を結集させる標語となった。集団安保もどちらかというと、功といっていいだろう。

ー扱いの難しいトランプ大統領と親密な関係を作ったのもある意味離れ業をやったといえる。

ー経済についてだが、アベノミックスは、金融緩和と円安で株高を呼び、そして大企業が一息をつけたということでは、良い面もあったが、それだけで終わった。これは中立だろう。ただ人口が減る日本にあっては、だれがやっても経済がかつてのように上向くということは難しい。しかも竹中、小泉のひいた非正規路線が貧困層を大量に生み出したので、その構造を変革するのは手遅れで難しい。移民局を作って優秀な移民を入れるしかないのだが、それも手遅れのように見えるし、日本国民は嫌がるだろう。

 さて、罪のほう。これはたくさんある。

 ―途上国型政治家としてトランプのように国民を二分した。

 ―自分に票を入れない国民の命はないがしろにした(これはシリア戦争たけなわなとき、在レバノン大使館、シリア班との接触により感じた所感)。つまり他政治家や役人もそれに染まった。

 ―森友問題にみられるように縁故資本主義(えんこしほんしゅぎ、英: crony capitalismを推進した。死人まで出している。

 ―マスコミに手を入れて、自分に都合の悪いことは報道させないようにした。

 

 ところで、逮捕された山上徹也暗殺犯(41)は、任期付き元自衛官。独身、無職。まさに時代を反映している。

 さて、選挙だが、この暗殺は投票行動に影響を与えずにはいられまい。また死せる政治家が短期的には政治を動かす可能性が高い。

 国民の冷静な判断が求められる。

 

 

プーチンの最後 ーウクライナ戦争はすべてを炙り出すー(4)

15.マスコミは田中龍作さんから話を聞いてはいかがだろうか

 先日、BSTBSの「報道1930」を見ていて驚いた。キャスターが「日本人ジャーナリストはキエフに残っていない」というのである。それは事実ではない。あるいは唯一キエフに残る田中龍作さんは日本人ではないというのか? 彼はインデペンデントなジャーナリストで、寄付により活動している。

 想像するに本当のことをいうジャーナリストなのでマスコミからは嫌われ、忌避されているのだろう。一方、彼自身大マスコミが嫌いなようだ。

 

 現在キエフに関するほとんどの報道は、恥ずかしいことに、海外のマスコミによる二次情報、あるいは現地の人からの映像に占められている。日本人の視点から見たキエフの報道は、彼しかできない。

 田中さんの報道のやり方や立ち位置は私の考えとは大きく違う。しかし彼は命を賭して伝えようとしているのである。

 

16.トランプだったらむしろもっと酷いことに

 バイデン政権の弱腰な外交政策を見て、トランプ大統領だったならば、この戦争は起こらなかったとアメリカや日本でも考えている専門家や一般の人々がたくさんいる。だが、それは危険な考えだ。トランプはもともと反ウクライナであり、ロシア側に立っている。バイデンの息子のウクライナ汚職疑惑もあり、大統領のときにゼレンスキーとは面会を拒否しているし、ウクライナ軍事支援二億ドル以上も一時凍結している(東京新聞 三月四日「本音のコラム」北丸雄二)。

 北村さんはワシントンポスト紙を参考にしたようだが、同紙三月七日によればトランプは「米軍機に中国国旗をつけて、ロシアを爆撃すればよい。そうすればアメリカはロシアvs中国の戦いを高見の見物だ」と発言している。冗談だろうが、トランプの元に西側諸国が結集するとは思いえない。

 

17.経済制裁は効く

 ロシア人は制裁慣れしているから、我慢し続けるとロシアの一部専門家がいっている。本当にそうだろうか? 一部年配の人はそうかもしれない。年金受給年齢が引き上げられても我慢するのかもしれない。初期の段階では、戦時ムードで反米・反NATOナショナリズムが高まるかもしれない。しかし時代は大きく変わった。グローバリズムにより全く違う国民がいる。

 

 私は駐在地のベネズエラで国の経済が自己崩壊するのを経験している。あっという間に通貨は紙切れになり、インフレが一〇〇〇%、一〇〇〇〇%となる。食糧、医薬品を探して長い行列を作る。あるいは、闇でそれらを高値で購入するために町中を探し回らなくてはならない。あちらこちらで商品の略奪が頻発する。企業は次々と倒産する。給与は国営企業の幹部でも月一〇〇ドルに達しない。彼らは私に「あいつら全員縛り首にしてやりたい」と嘆いていた。もしろん、あいつらというのは、大統領とその取り巻きである。

 ベネズエラではあっという間に六〇〇万人ほどの経済難民が出た。ロシアと中国が支援している中でもそのような状況なのだ。

 今回もロシアにとって中国の支援はさほど当てにならないだろう。すでにオルガルヒアと呼ばれる大金持ちたちの一部は自家用飛行機でロシアから逃げ出している。またクレジットカードが使えないため、タイ滞在中のロシア観光客数百人はホテル代金も飛行機代金も支払うことができずにいる。世界から切り離された国は、経済崩壊する他はない。

 それを避ける手段はロシア人にふたつしか残っていない。

 

18・ロシア難民はどこにいく

 すでにロシア人の一部はアルメニアに移民しているという報道がある。ベネズエラ国民は、他の中南米諸国、スペイン、アメリカに逃れることができたが、ロシアから逃れたい人が多数出てきたとしても、彼らはいったいどこへ行くのか? セルビアか? 中国か? 北朝鮮か? シリアか? ベネズエラか? アメリカか? 日本か? それとも廃墟となったウクライナの街か? 

 

19.ロシア国民よ、立ち上がって!

 かつて、日本、ドイツ、イタリアは破滅の道を歩んだ。それは政府だけの責任ではない。それを選び、それを支持してきた大衆の責任でもある。経済難民として他国へ移れない以上、ロシア国民に残った手立ては、プーチン排除という手段しかない。それは世界のためでもある。

 次の選挙まで二年間狂人が権力の座にいることを許すことができるだろうか。原子力発電所を攻撃し、クラスター爆弾や燃料気化爆弾を使用し、ことさら病院、学校、幼稚園にミサイルを撃ち込む戦争犯罪のオンパレードである。人権という用語は存在しない。そんなロシアでいいのだろうか?

 

 現代はものすごい速さで物事が進む。何事も起こらないというロシア専門家も多いが、ロシア国民はそれほど柔ではないと思う。自国を変革しようとするロシアの人々は平和を求める国際社会といっしょにある。旧勢力のゴルバチョフ財団、エリツィン家に連なる財閥はこの戦争に反対している。新興財閥のオルガルヒや軍幹部が戦争犯罪人プーチンと運命をともにするとは思えない。

 

 私の頭にすぐ去来したのは、日露戦争やアフガン戦争のあとの政権崩壊だ。

ウクライナの粘り強い反撃→→経済制裁NATO軍事支援→戦争泥沼化→ロシア国内疲弊→ロシア国内オルガルヒ・軍他への工作→国内クーデター→プーチン政権崩壊。

 

 いずれにしろ核の脅しをかけてくる狂人には、NATOアメリカも同じように受けて立つという姿勢を見せるほかはない。プーチンはロシアを安全にするためにといっているのだから、ロシアが灰燼に帰することは望んでいないだろう。それともカストロのように玉砕精神なのだろうか?

 世界は第4次世界大戦の瀬戸際にある。

  三月一三日 記   

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ロシア人だってこの戦争には反対だ

 

 プーチンの最後 ーウクライナ戦争はすべてを炙り出すー(3)

10.旧ソ連時代パルチザン戦争でソ連共産党員は次々と殺害された

 ロシアの工作員ウクライナ南部のメリトポリ、ドニプロルドネの市長を拉致し、傀儡の市長に頭をすげ替えるという稚拙な企てを行っている。ロシア側は今後手痛い仕返しを受けるだろう。プーチンは歴史を学んでいない。

旧ソ連時代、スターリンはドイツ側についたウクライナ西部の何万人という市民を復讐のためにシベリアに移住させた。ソ連は代わりにロシア人を送り込んだ。どうなったのだろうか?

 

「西ウクライナ全域でソヴィエトのやつらに対する、本物のパルチザン戦争が始まった。何十、何百というグループが、ソヴィエトの役人、兵士、将校を待ち伏せした。東ウクライナとロシアから派遣されてくる共産党の専従職員が頻繁に殺された。そして、これに言及しないわけにはいかないのだが、ロシア語と共産主義教育のためにロシアとソヴィエト・ウクライナから農村部に派遣された若い教師たちも殺された。この戦争は一九六〇年代の初めまで続き、犠牲者は双方とも数万人にのぼった」(『ウクライナ日記 国民的作家が綴った祖国激動の155日』(アンドレイ・クルコフ 集英社)。

 今回のパルチザン戦争は、ウクライナほぼ全域で行われることになる。

 

11.JICAは態度を鮮明にせよ

 ウクライナは遠い世界ではない。日本の税金二〇〇億円弱(借款)がキエフのボリスポリ国際空港の拡張工事に使われている。日本のコンサルタンツが設計し、トルコ企業三社が受注して建設したものである。ロシアの空挺部隊により、占拠されたようだが、それに対してJICAは早々ホームページで態度を鮮明にすべきだろう。これは我々の税金が入れられているのだ。イラク戦争のときも日本が建設した学校や病院が破壊されている。

 

12.日本が自衛隊の装備品を供与すことに賛成する

 日本は、防弾チョッキ、防弾ヘルメット、非常用食料、防寒服、テント、発電機、カメラ、衛生用品など殺傷能力が自衛隊の装備品をウクライナに供与するという。私は途上国へのテロ対策支援に係わっているが、ロシアによる国家テロに対して法律の範囲内でできるだけの支援をすべきだと考える。それは日本の憲法の精神に合致するものだ。岸防衛大臣の「ウクライナの国民を最大限支援するとともに、国際社会と連携・結束し、国際秩序を保守するとのわが国の方針を明確に示すものだ」という表明に賛成する。

13. 核の共有には反対する

 この危機にあって岸田総理であったことは行幸だったかもしれない。

 火事場泥棒のように、何人かの政治家やある政党が「核の共有」を推し進めようとすることには、反対だ。

 核を共有しても主権は核保有国にある。しかも今回ロシアによりウクライナ原発が攻撃され、人質になっていることを考慮するとマイナス面も多い。

 さらに日本は歴史が長い国ではあるが、今の日本の出自はどこにあるかというと、敗戦後の平和主義、つまり本文でも書いたように「破壊ではなく再建を、紛争ではなく友和」に行きつく。

 その国是を捨てるということだろうか? 

 日本の国際的信用は失墜する。日本人が思っている以上に日本の影響は大きく、世界にモラルハザードを引き起こすことだろう。

 私はこんなときだからこそ、日本国憲法を持っていることを誇りに思う。今こそ九条一項の精神に立ち戻り、かつそれをロシアと国際社会に訴えるべきだろう。

「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」

 

14.核使用はあるか? キューバ危機とは似て非なるものだ

 プーチンウクライナ情勢はロシアにとってのキューバ危機だといっている。けれども、キューバ危機のときは、すでにキューバに核が配備されていたのである。ウクライナは核を廃棄したのである。真逆だ。また、政治のメインアクターが大きく違う。

当時、カストロ(三二歳)、フルシチョフ(六八歳)、ジョン・F・ケネディ(四五歳)。

 

 カストロキューバ人玉砕を覚悟して、フルシチョフアメリカ本土への先制核攻撃を依頼している。第二次世界大戦でクライナ共産党の責任者としてナチスと戦ったフルシチョフは、カストロの助言に従えばどうなるかを考えて、身震いした。キューバは破滅し、世界規模の核戦争が始まる。

 

 一方、ケネディペンタゴンアメリカ国防総省)の指揮官らから核の使用を求められていた。ところがケネディ第二次世界大戦時、哨戒魚雷艇駆逐艦PT一〇九の艦長。ソロモン諸島沖で日本海軍の駆逐艦天霧」に母艦をまっぷたつに引き裂かれ、ほうほうのていで生き残った経験があった。彼は「全面戦争」とか「総力戦」といった抽象的な言葉を軽蔑し、「ここで起きている戦争」は汚いビジネスだと述べている。

 

 結局、フルシチョフケネディは書簡の交換、水面下の交渉などにより、キューバからの核ミサイルの撤去、キューバ保全、トルコにあるアメリカの核ミサイルの撤去(秘密交渉)で妥協し、核戦争を回避した。

 

 今回のメインアクターは、ゼレンスキー(四四歳)、プーチン(六九歳)、バイデン(七九歳)、NATO諸国、誰一人戦場を直接経験している人はいない。

今の時代も参考になるキューバ危機は、「北朝鮮危機を前にトランプ大統領に読ませたい珠玉の一冊」として、『核時間 零時1分前 キューバ危機13日間のカウントダウン』(NHK 出版)を紹介しているので、是非目を通してほしい。

 

 続く

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渋谷ハチ公前 2月25日 ウクライナ支援 

 

 

 

プーチンの最後 ーウクライナ戦争はすべてを炙り出すー(2)

6.外務省のロシアンスクール出は要注意

 BSフジの政治関係の「プライムニュース」、東郷和彦 元外務省欧亜局長 静岡県立大学グローバル地域センター客員教授が次のような趣旨の発言があった(二月二八日)。    

「日本の外務省にはロシアとの交渉の蓄積・知見がある。ロシアを表立ってこれほど非難せずに、仲介者として日本の政治家を送るべきだ。中国が仲介者になったときは日本の悲劇だ」

 

 最初、なるほどそんな考えもあるかと思ったが、少し考えるとこれは日本を破滅へと導く危険な提案である。思い出したのは、国際連盟からの脱退を宣言し、日独伊三国同盟を結ぶ原動力となった松岡洋右外相、そして、ナチスヒトラーに心酔した大島 浩ドイツ大使。彼らは日本の針路を過たせ、日本を破滅に導いた。

 

 日本がG7の中で中立的な立場をとったとしたら、どうなってしまっただろうか? そして、ロシアに対する知識の蓄積があるから日本外交は有能だという認識は、国民感情と大きく離れ、それだけではなく客観的な視点からも現実離れしているのではないだろうか? たとえば元島民には気の毒だが、プーチン政権で北方領土返還などありえない。幻想を見ようとする専門家、政治家、経産省を含めた官僚には要注意だ。

 故岡崎久彦氏(外務省情報調査局長)のような全体像を深く見ることのできる人こそ必要だ。

 

7.仲介者は誰か

 ウクライナとロシアとの交渉の仲介者には、中国、インド、イスラエルなどがあげられている。ウクライナは中国とイスラエルに頼んだようだが、中国は火中の栗を拾うだろうか? そして中国が仲介者になったならば、日本には悲劇だというが、本当にそうだろうか? 一時のパックス・シーナが成立したならば、それはそれでいいのではなかろうか。平和の使者となった中国にとって台湾に侵攻するような行為は、いっそう敷居が高くなるだろう。

 

8.プーチンは狂人ではないのか?

 やはり外務省ロシアンスクール出の作家・元外務省主任分析官佐藤優さんは「この戦争は許されないが、プーチンは正気でこの行為は理屈にあっている」という趣旨の文章を発表している(『プーチンの精神状態は異常』という報道は、西側が情報戦で負けている証拠である 三月七日 President 0n line)。

果たしてそういえるのだろうか? 

 

 この考えは危険だ。ヒトラーの行為やスペインによる中南米の先住民の虐殺に免罪符を与える可能性がある。

 

 ロシアの行為を日本に置き換えてみれば、大日本帝国復活のために、為政者が突然軍を北方領土あるいは朝鮮半島に侵入させたに等しい。それは狂気そのものだろう。

 

 プーチンのせいで、日々、子供を含めて一般人が何人も殺されている。今後、何十万人、何百万人の命が奪われ可能性さえある。プーチンは邪悪な戦争犯罪人であり、狂人である。

 

9・プーチンの恐るべき目的

 プーチンの目的はあれこれ取りざたされている。あまり言及されていないが、ロシア兵の被害が大きくなればなるほどその目的は恐るべきものになるかもしれない。すでに二〇〇万人を超える人々が難民となって国を脱出している。そのあと各都市で殲滅(ジェノサイド)が始まるだろう。プーチンソ連邦とロシアの栄光を求めて始めるのは、何か?

 

 強制移住である。

 

 一九三〇年~五二年にかけてスターリンは六〇〇万人の民族を主にシベリアと中央アジア強制移住させている。それらは、クラーク(自営農民)、コサック、ドイツ人、ポーランド人、クルド人ユダヤ人、ウクライナ人、ギリシア人、エストニア人、ラトビア人、リトアニア人、クリミア人、タタール人、朝鮮人、中国人、日本人と枚挙にいとまがない。もちろん移動の前後で多数の人々が死んだのである。

 

 ハリコフ、マリウポリキエフオデッサなどで戦闘員、志願兵を殲滅した後に、廃墟に経済的に疲弊したロシア人を送るつもりだろう。ロシア人の血で贖われた土地を戻すわけがない。

 3月10日記

続く

 

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渋谷ハチ公前広場

 

プーチンの最後 ーウクライナ戦争はすべてを炙り出すー(1)

プーチンの最後ーウクライナ戦争はすべてを炙り出すー (1)

 私はウクライナやロシアの専門家でもなんでもない。わずかにかかわったのは、旧ソ連に対応する首相向けの外交政策提言(「変貌するソ連と日本の対応」日本国際フォーラム)だけである。

 しかし、専門家といわれる人々が必ずしも正鵠を得ていずに、むしろ狭い思考回路故か過つことがある。それは今回もはっきりした。また、マスコミに携わる人々、市井の人々が声を上げなくてはこの国は過つ。それは先の大戦を振り返れば明瞭である。

 

 今、私の前にはMilitary Trauma Kit(戦時応急処置)の目録がある。出血止め、気道確保、銃創保護、切断器など命を守る器機一五品目のキット一式である。詳細は明かせないが、大量にウクライナに送る計画がある。兵士のみならず、子供たちにもこれが使わると思うと言語を絶する。

 一人の狂人とそのわずかな側近が世界を破滅させようとしているのだ。「アマゾンより人類の生存可能性を問う」を発表してから二一年が経過し、コロナウイルスとロシアのウクライナ戦争によりまさに人類の生存可能性が問われている。懐手をして座しているわけにはいかない。

 ウクライナ戦争にかかわる表明である。

 

 

1.ウクライナは負けない 国の出自を探れ

 アメリカとその情報を元とするマスコミは、早々キエフは陥落すると予測・報道していた。だがその予測は外れた。私は自身のfacebookにロシアの侵攻に対してもウクライナは簡単に負けないと書いた。なぜか? 

 知らない国を早急に知る秘訣があるからだ。とりわけ危機的状況では、それがあてはまる。それは投資、援助、戦争などのあらゆる事象に当てはまる。それは“国の出自に遡る” ことである。

 ウクライナは、コサックが作った国で、国民はその末裔を自認している。つまり出自はコッサクであり、その血筋を誇りにし、日本の武士の精神に近いと自らを見ている。だからこそ、コルスンスキー駐日大使は日本の鎧兜に身を包んだ。

 

 ウクライナには、コサックのヘーチマン国家ウクライナ語:Гетьма́нщина)が、一六四九年から一七八二年の間に存在していた。その正式な国号は、ザポロージャ(ウクライナ南部、歴史的地名)のコサック軍(Військо Запорозьке)である。

 

 ウクライナの作家ニコライ・ゴーゴリには、この時代のコサックの戦いを描いた『隊長ブーリバ』がある。私は小学校のころに児童文学でこの作品を読んだ覚えがある。本作はユリブリンナー主演でアメリカ映画(一九六二年)になっている。

 

 ただしゴーゴリウクライナをロシアの一部と考えていたので、ウクライナでは裏切者とされる。国民作家はウクライナ語で『コブザール』などのウクライナ語の詩作がある詩人・画家のタラス・シェフチェンコである。彼の作品にもコサックを扱ったものが多い。キエフ大学の正式名はタラス・シェフチェンコキエフ大学である。

 

2.ウクライナ国歌を是非きいてみよう。

 ウクライナ国歌はもともと一九世紀につくられたものである。それが国家として採用されたのは、ロシア革命が起こり、独立宣言した一九一七年である。その後ソビエト連邦に併合されたが、再独立後一九九二年に復活した。

この国歌は「ウクライナはいまだ滅びず その栄光も自由も 同胞よ 運命は我らに再び微笑むだろう」と始まり、こう続く。

 

我らが敵は日の前の露のごとく亡びるだろう。 兄弟たちよ、我らは我らの地を治めよう。我らは自由のために魂と身体を捧げ、 我らがコサックの氏族であることを示そう。我らは認めぬ 他者により支配を。

 

 自由という言葉が五度も使われ、「我らがコサックの子孫であることを」というフレーズが二度出てくる。この歌がどこの国に対して作られたのかは明白である。

 ウクライナ 国歌ウクライナは滅びず(Ще не вмерла України)」 

 

3.プーチンヒトラーと同じ精神状態だ

 ヒトラー第一次世界大戦に従軍し、敗北を経験した。

 ベルサイユ条約によりドイツ帝国は消滅し、領土の一部をベルギー、ポーランドチェコスロバキアなどに割譲され、多大な賠償金を課せられた。日本もこのとき、赤道以北ドイツ領太平洋諸島を委任統治することになった。ヒトラーは一九一八年の敗北の日から二〇年間復讐心を滾らせていたことになる。一九三九年九月一日に、自作自演の「ポーランド正規軍によるドイツ領のラジオ放送局への攻撃」(グライヴィッツ事件)、針小棒大にでっちあげたポーランド国内でのドイツ人への迫害、いくつかの要求に対する無回答などを開戦理由として、北部、南部、西部の三方面からポーランドに軍隊を電撃進軍させた。

 

 一方、一九九一年のソ連の崩壊はドイツ帝国の崩壊に匹敵する。冷戦とは米ソが銃弾を交えない戦いだったが、むしろ第三次世界大戦と考えたほうが納得がいく。敗北したソ連は、解体され、主権国家として次の国々が独立した。

 

アルメニアアゼルバイジャンエストニアジョージア 、カザフスタン 、キルギス 、ラトビアリトアニアモルドバタジキスタントルクメニスタンウズベキスタンベラルーシウクライナ

 

 社会主義体制に慣れ親しんだ旧ソ連国民は、自由主義経済の元、辛苦を舐める。ロシア人の寿命は五七・六歳(男)にまで落ちた。

 一九九五年よりKGB職員として東ドイツに派遣されていたプーチンは、一九八九年のベルリンの壁の崩壊を目撃した後、祖国に戻り、ソ連邦の解体とロシア国民の辛苦を味わうのである。ヒトラーと同様、三三年の間、復讐の爪を研いでいたに違いない。今回のウクライナ侵攻のやり口は、ヒトラーのやり口そのままである。なら将来はどうなる?

 

4.本当のナチは、相手をネオナチと呼ぶ

 ヨーロッパで誰がかつてのナチスに近いかは明白である。戦争犯罪者は、自らがナチであるのに、相手をナチと呼ぶ。プーチンにはそう呼ぶ理屈があるとする論理は、世界には通じない。これは私が経験したことだが、自国民を殺害するベネズエラの故チャベス、マドゥーロのファシズム政権は、民主主義勢力を「ファシスト」と声高に言い募っていた。

 

5.キエフ包囲で飢餓(ホロドモール)が起こったなら

 ロシア軍はキエフを包囲するつもりのようだ。補給路を断ち、兵糧攻めにするのだろう。ポーランドと結ぶ線路や道路も破壊されるかもしれない。マリウポリでは、すでに飢餓が始まり、赤ん坊が水がなく死去したという報道もある。

 思い出すのは、かつてのソビエト連邦スターリンが引き起こしたウクライナの人為的大飢饉(一九三二年~三三年)、即ち一〇〇〇万人以上の餓死者が出たともいわれるホロモドーロである。スターリンは農民の土地を取り上げ、集団農場化し、日本的にいえば極端に年貢をしぼりあげた。ウクライナとの境界は閉鎖され、飢餓の事実は隠された。

 

 この歴史は、二〇二〇年に日本でも公開された映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」で描かれている。わけあってフリーのジャーナリストになった英国人ガレス・ジョーンズ(史実)がウクライナに潜入する。そこで人肉食まで行われる悲惨な飢餓を見る。けれどもニューヨークタイムズのような大マスコミはそれを知っていて否定するのである。

 この犯罪は、日本では知られていないが多くの国でジェノサイドとして認定されている。また、ガレス・ジョーンズは満州国ソ連に暗殺さているのだから日本と係わりもある。

 

 再びプーチンは人為的飢餓というジェノサイドに手を染めようとしているかに見える。そのとき、NATOアメリカ、日本、国際社会はかつてのように黙って見過ごすことができるだろうか? 

 

3月10日記

 

続く

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2月25日 渋谷ハチ公前 ウクライナ支援集会