民主政治下での独裁

 


 まるでこれは、ジョージオーウェル『1984年』の世界である。あるいはやはり、オーウェルが滞在し、ぼくもよく訪れたミャンマーの現在の軍事政権である。独裁は敵を無理にも作り出し、そして国内ではあらゆることが可能なのだ。


 ぼくは昨日うっかりニュースを見落としていたので、そのまま車で職場へ行った。途中普段は混雑する道路もすきすきで、すんなりと車は進んでいく。
 
 カーラジオからは、
「今日は祝日、ミラフローレス10周年記念です。働いた場合は罰則があります」
 というニュースが流れる。ミラフローレとは場所の名前で、そこにある大統領官邸のことを指す。
 
 何か別世界である。ジョージオーエルが全体主義の世界を描いた小説『1984年』、あるいはぼくが数回訪れて、ときの軍事政権と相対した、ミャンマーを思い出す。突然、紙幣を廃止したり、あるいは突然首都の移転を発表するのがミャンマーのやり方だった。

 ベネズエラも同じである。

 一昨日の夜、大統領官邸にあるグランドで他の閣僚や将軍とソフトボールの試合をしているときに、チャベス大統領はテレビで突然告げたのである。

「明後日、2月2日は祝日とする。政権樹立10周年記念祝日である。労働は禁止だ」

 彼はどういう理由かわからないが、ラテンの伝統であるカーニバルの祝日を取り消している。働け、という。今度は働いてはいけないという。

 なぜ、なんだかよくわからない。

 職場に行くと、ベネズエラ人は誰も来ていない。

 結局昼で仕事は終わりになった。

 町に戻ると、やはり閑散としている。店はみなシャッターがしまっている。もちろん、学校も病院も休みである。

 病院も開けていると、罰金を取られるのである。

 50代になるベネズエラ人はこういう。

 「こんなばかげたことは生きていて初めてだよ。ああ、恥まみれの10年記念か」


 けれどもチャベスはまさか、ソフトボールの試合中に気まぐれで、今日を祝日にしたわけではなかろう。

 2月15日には憲法改正のための投票がある。

 大統領の無制限の再選を許す(SI)か(NO)の国民投票である。 

 突然の祝日制定は、

 権威を示す
 チャベスによるチャベスのためのチャベスの政府であることを明確にする
 チャビスタのいっそうの内部強化と統制を目指す

 などが目的だろう。

 それにしても、チャベスは最初の赴任当時こういっていた。

「わたしはたんにある制度を作るための道具でしかない」

 今、彼はこういう。 
 
「2009年、2019年、20029年、2039年チャベスは大統領だ!」

 次回は憲法改正について

 写真は、SI(憲法改正賛成)の宣伝におおいつくされたバレンシアの街