今日、ホームレスに戻った その11

★原宿で遺体を探す
2.公園で契りを結ぶ
★夫婦ホームレスの善し悪しー元NTTのホームレス
 驚いた。おれの雑然とした六畳間よりも整然としていた。八畳間ほどの普通のアパートの一室とさほど変わらない。地面にはすのこを敷いていて、その上に布団、ちゃぶ台、茶ダンス、ラジカセが置かれ、右側にはダイニングキッチンまであって、上に調味料の類が林立している。引越しのバイトと本の仕分けでは月収一〇万に届かないはずなのに。
「元の家から持って来たんですか?」
「まさか、違いますよ。一年前は時々住込みで働けたんです。そのうちアパートを借りようという計画で家財道具を集めてたんですよ。でもいまは住込みに行けないんです」
「ええ、なぜ?」
 橋本さんは、はにかみながら答えた。
「この公園には五、六人夫婦ものがいるんですよ。わたしもそのひとりで」
「夫婦でですか、新しい奥さんと、ならいいすね」
 おれは羨ましくなった。
「よくないですよ。一〇代の若い娘がこの公園には時々野宿しているから、本当はそんなのに声かけたいんだけど、女房は五〇代ですからね」
 おじさんは一年ほどまえ、一人ベンチで泣きながらポテトチップを食べていた女性に、拾ったハンバーグを差し出したのが機会で同棲するようになったのだという。
「なら夫婦二人で住み込みで働けばいいのに」
「それが女房は坐骨神経痛で働けないんですよ。それにわたしが公園から出ると女ひとりじゃ物騒ですからね。以前は夜だってトイレにはついていったもんです。今は中の土を掘ってそこで用を足せるようにしてますけど。夫婦になるのも善し悪しですよ」
 おれは橋本さんの奥さんに興味がわいた。上野でいっしょに寝ていた二人の女性は夫の暴力から逃れるためにホームレスになった。元プロレスラーは旦那の借金を返すためにアパート代を払うのがおしくて公園に出た。彼女はどんな理由なのだろうか?
「奥さんはいらっしゃらないんですか?」  
「いま座骨神経痛で大塚のほうにマイナスイオンをかけてもらいに行ってますよ。あれ効きますよ。血液の循環をよくするためですから。人づてに噂が広まればいいんで、ただでできるんです。わたしも引っ越しのバイトで重いものをもって腰の調子が悪かったけど、今はいいですよ。奥さんの腰が悪い? じゃあ奥さんときたらどうですか? うちのは渡辺っていうんだけど。わたしは橋本で。女房に言っておきますよ。マイナスイオンをただでかけられるのは、Pっていう会社でね」
 なんだか、ホームレスが下界に出て、マイナスイオンを浴びている姿は、痛快だった。おれは、橋本さんに別れ分けを告げ、家に戻ってネットで調べると、その会社のホームページにはこんな宣伝文句が並んでいた。
「機器の開発にあたり次に説明する原理は、すべて私達を取りまく理想的な自然を再現しその有効性を拡大した人体電子医学です。この原理は、活力のある青年の成長エネルギーを原点にし、人体生理学にもとずき完成した生体電子医療機器であり健康保全機器で完成後に熟成させるために電圧を二〇%強く一二〇Vに上げて四ヶ月間連続の試験通電と同時に、熟成期間をかけて完璧な完成品だけをお届けしています」
 そして「一家に一台必要な時代です」などとうたわれている。製品価格は書かれていない。全国津々浦々で講演会と体験発表会が開かれている。怪しい。限りなく怪しいオーラを放っているホームページである。

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★さて、みなさんお正月はいかがお過ごしでした?
 ぼくは正月早々、ホームレス行脚です。ホームレス界は一度入るとなかなか抜け出せない。次作も山谷、ホームレス界が舞台となるかもしれません。そこで、公園、河川敷、山谷で暮らしやすそうな場所を比較しました。
 上野などの公園:テントは厳禁され、夜にテントをはって早朝に出るしかないようです。つまり段ボール住まいです。
 山谷:生活保護をとって、貧困ビジネス経営の宿に入るのが手です。
 河川敷:工事で撤去されない限り、大きな家屋を作れ、畑ももてるのでよさそうです。役所も、人の目に触れなければ、一般人からも文句をいわれず、役所に苦情の電話もかからず、役人の手を煩わさない。だから見て見ぬふり。鴨長明も最後は稼働可能な小屋を作って河川敷住まいだったのですから、それが日本文化にあいそうですな。

原発に関しては、原発ムラやその周囲の攻勢が続く
・すべてとまると電力がない。・天然ガスや石油の輸入で国際収支が赤字になる、・ホルムズ海峡が封鎖され、イランを巡っては戦争になる、など原発必要論が囃したてられるでしょう。けれども、むしろ、原発そのものにつきまとう不安定さ、度重なる故障により安定供給ができない電力であることに目を向けたほうがいいでしょう。石油の供給源の多様化は40年も前からいわれていたのだから、そのような努力こそが必要になるはずです。
「愛! フクシマの黙示録」第10話―原発放射能の秘密 まで書き上げました。