今日、ホームレスに戻ることにした 13

★原宿で遺体を探す
2.公園で契りを結ぶ
★女ホームレスとの健康デート

 次に奥さんとあったときは、夜勤の引越しの仕事をとれた旦那の橋本さんは不在だった。一般社会と交わるため、身だしなみを整えようと、銭湯に行っていたのである。奥さんは大塚のパワーヘルスの店舗へ出かけるところだった。彼女はいった。

「あなたにだから教えるけど、ホームレスには教えないわ。こまるものホームレスだらけになったら」
 いっしょにおれは大塚までいった。
 彼女は山手線の中で、「もう三〇回以上いっているから、そろそろ別の場所に変らなきゃ」という。ただで、何度も試す人ばかりだと、ビジネスとして成り立つのだろうか? 高いものだと機械は五〇万円前後するらしいので、一台売れるだけでも収益がかなりあるのかもしれない。
 大塚の昔映画館のあった路地をあがったところにパワーヘルスの店舗はあった。八畳ぐらいの広さである。そこに黄色の金庫のような機械が何台か置いてある。お尻の部分にビニールのシートと布を重ねた椅子も並んでいる。来訪者は、名前と住所と電話番号を記入せねばならない。彼女は適当な住所、名前、電話番号を記載しているのだろう。おれも面倒くさいので出鱈目を記載した。
 渡辺さんが何度も利用しているのだから、少なくとも身体に害はないだろうと思い、おれも試した。三〇分ほど椅子に座って、身体にマイナスイオンを流し込むのである。軽い電流が身体に通っていくようだが、説明ではイオンだけを流し込むのだという。
 信じる人は効き、信じない人は効かない類の商品だろう。
「おかげでずいぶん楽になったわ」と渡辺さんは、その効果をすっかり信じ切っている。

 お試しが終わったあとで、彼女をドトールに誘った。おれは今の旦那の橋本さんがいる前では、話しにくいことがあるに違いないと踏んでいた。幸い客は二組だけで、彼らと少し離れて座ることができた。
おれも彼女もアイスコーヒーを注文し、それを飲みながらあれこれしゃべった。傍目に見たならば親戚同士が話しているように思われたことだろう。おれはこう口火を切った。
「女の人なら、最初は大変だったでしょ?」
「ええ、少し甘く考えていたわ。外に出て分かったけど、夜寝る場所がないのよ。駐車場の中とか軒下とかいい場所は男たちがいるでしょ。凶悪犯みたいな顔して怖くてたまらないわよ。寝るのは女性トイレとか。レイプの危険だけじゃなくて、女ひとりだと金をせびりにきたりするの」
 治外法権のホームレス界の公園や路上で女一人で住むことは不可能である。上野の元プロレスラーのようによほど腕力が強ければ別だが。
「最初から代々木公園にいたんですか?」

「ええそう。家から遠いから、知り合いに会わないなって思って。でも寝るのも大変だってわかってから、宮下公園のホームレスの梁山泊にすばらしい人がいるっていうんで相談に行ったわ。みんなを組織化して、食堂まで作っているの。でももうその人はそこを出た後らしくて、若い人が出てきて、おれは一八の年からもう八年もいるって、威張っているのよ。ばっかじゃない。外に出て働くのが普通なのに。とんでもないのがいるわよ」
 この若い男は彼女のおめがねにかなわなかったわけだ。ホームレスの女性にとっては男の選択が死活的な意味合いを持ってくる。他にどんな出会いがあったのか?

                                                                                                                                                                                          • -

★写真は現在の代々木公園。今はテントは一目のつかないところに集められています。
★宮下公園も写真にあるようにスポーツ公園に様変わりです。