今日、ホームレスに戻ることにした 14

★原宿で遺体を探す
2.公園で契りを結ぶ
★女ホームレスとの健康デート
「日系のブラジル人の凄い人がいたわ。聖書とコーヒーと白砂糖だけを持って、ホームレス村を渡り歩くのよ。ブラジルじゃ二〇〇人ぐらい黒人を雇って芋を作っていたんだって。紳士だけど野生児よ。雨が降ったときはビニールシートをかぶって眠るのよ。お腹がすくと道端の草を食べるの。農業やっていたから何が食べられるか分かるんだって言ってたわ」
 彼女ははっきりいわないが、その男としばらくいっしょにいたのだろう。けれども、雑草を食べる移動生活では辛い。
「あと、のぞき専門のライターがいたわ。一年中代々木に来ていて朝の四時半に帰るのね。夏にはのぞきが三〇〇人も出るんですって」
 おれはホームレス業界に属しているが、覗き業界というのもあるわけだ。でもその男は一般人だろうから、縁を結ぶわけにはいかない。結局選んだのは今のだんなだったのだろうか?
「こっちからいっしょに住んでって持ちかけたわ。あの人は他の人と比べれば怖い顔してないし、まじめそうで大丈夫かなと思ったのよ。実際ちゃんと働くし、いざとなれば強いところある」
 レイモンド・チャンドラーの言うがごとく、一般社会でも路上でも公園でも、男は優しくて強くなきゃいけない、というわけだ。
「でもね、よく働くんだけど、隣があれで住み込みに行けないから、ほんとうこまるわ。方角が悪かったのよ。ろくなことがないもん。わたしが一人でいると、テントをすぐそばにくっつけてきたり、荷物をわたしのテントの前において、『狭いからこまるんだ』とかいって、金もせびろうとするのよ。とんでもないわ。おかげでこの一年で二〇年分苦労したわ。人には言えない話がたくさんあるわ。女同士なら話せるけど」
 おれは少し黙った。人に言えない話というのはおおよそ見当がついた。彼女は続けた。
「だからいつか引越そうと思うのよ。どこがいいかしらね?」
上野公園も満員だし、新宿は柄が悪い。山谷や隅田川は路上生活者のプロ向きだし、閑静な荒川河川敷という手もあるが、台風のときは氾濫するし、仕事を探すのに不便である。
「さあ、どこも一長一短ありますからね。それより女性用の駆け込み寺に行くとか生活保護と取らないんですか?」
「だめよ、それは。申請すると親戚とかに知らせるでしょ。こんな生活しているのは知られたくないし、迷惑もかけたくないわ。ずっと一人でやってきたから」
 恥の感覚とともに、迷惑をかけたくない。この二つこそが人を袋小路へと追い込む大きな原因である。後におれは貧困のせいで痴ほう症の母親に手をかけた男の物語を雑誌で書いたが、その原因も、この二つにつきた。
 そのうち、おれたちの話題はパワーヘルスと健康に移って行った。
「まあどこへいっても悪いものだらけでしょ。食べ物も汚染されているし水道にはトリハロメタン、空気も汚れているし、建物の中は電気器具ばかりでプラスイオンがいっぱい。癌になりやすいのよ。公園にもときどきボランティアなんかが来て『病院に行ったら』っていうけど、悪いとこ見つかったらいやだから、たとえば癌とか、それなら知らずに死んだほうがましだって思っているのよ」
 癌という言葉におれはダイヤモンド社の元編集者の舘野素子さんを思い出した。最近癌にかかってしまった彼女はこういっていた。
抗癌剤をやってヒドイ目にあったわ。歯茎とかいろんなところが腫れて、ものを食べられない。それでやめてしまったら、一月でよくなって。やめてよかったわ。これを機会に自分の人生を考え直したの。このままでは、たとえばうちの父の世代はまだよかったけど、わたしたちの世代が日本を悪くしたのかなって? 次の世代に、伝えるべきものを伝えなかったから、だから同じ世代の人を救うようにしているのよ」
 彼女はホームレス支援のためのミュージカルを作ろうと奮闘していた。家は代々木公園のそばのマンションである。館野さんには、ホームレスを紹介してくれといわれていた。
 おれはホームレスのおばさんにいった。
「今度、知り合いの女性に会いませんか? 近くに住んでいて、いいひとなんですよ。ホームレスのミュージカル作る予定なんです」
 渡辺さんは快くうなづいてくれた。

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★3泊4日(車中泊2日、ホテル1日)8000円で弾丸ツアーのように宮城県の仙台沿岸=宮城野区若林区、荒浜、名取市閖上石巻、松島、奥松島、福島県相馬市に足を伸ばし、被災10カ月後を見てきました。その状況は近々、ブログで書く予定です。
★夜行バスは往き3500円、復路4500円と格安ですが、往は4列シートで椅子も固く、毛布もなく極めて不快な旅でした。帰りは3列で毛布があったけど、座席が狭くて、快適とは言い難い。南米の長距離のほうが断然いいですな。やっぱり日本は列車の旅がいい。JALホテルはクーポンがあるので現金支払いなし。朝食は混乱してマネージメントがなっていないので、食券を渡す必要もなく、宿泊客でなくても黙って食べられそう。