俄かアラビアのロレンスを目指して

 砂漠は清潔だ、といったのは、確か中国の砂漠を描いていた・シルクロードを描き続けた日本画家の平山郁夫さんだったろうか?

 ぼくにいわせれば、砂漠はむしろエロチックである。砂山を作る曲線美は、女のうなじや腰のラインを想像せずにはいられない。


 だがそんな気分を味わうのも束の間。
 ランドクルーザーで、砂漠をかけめぐっているのだ。峻剣な坂を車でまっさかさまに落ちる。下る。上る。数十メートルの高さの砂山の稜線を猛スピードで走ってみる。まるでスキーを滑る感覚である。





 
 ここはドーハから1時間ほどUMM SAIDの町の南側に広がる海沿いの砂漠である。地図にはDUNE FIELDSと書かれている。DUNEとは砂丘のことである。
 砂、砂、砂―砂しかない。ときおり左手に海が顔を出す。向こう岸はサウジだろうか、UAEだろうか。この小国は2、3時間も車で走ると、国境に行きついてしまう。

 途中、海辺のリゾートがあるが、なんともひなびた海の家である。ここまでくる旅行者も少ないからだろうか。昭和30年代の九十九里浜のようだ。水とソフトドリンクが冷蔵庫に入っているだけである。

 海の明度もカリブや沖縄や紅海と比べるとものたりない。とはいえ海が目的ではない。砂漠なのだ。

 一瞬、アラビアのロレンスを思い出す。ゴトラ(白く四角い布)をかぶり、イガール(黒い帯状の輪)をつける。菊池寛の『形』ではないが、人は装いで気分も変わるし、他者の見る目も変わる。
 その余韻をもって、ドーハに戻り、モロッコレストラン、Tajinでラクダステーキを所望するが、うーん、まずい、固くて、肉汁もなければ、野生の匂いがするだけで、これはボリビアのオルーロで食べた猫のカツレツ(ファルソコネッホ)以来の不作である。

 しかも、猫カツレツは200円のコース料理だったが、このラクダは肉だけで1200円ほどもする。 
 うーん、やはりラクダは砂漠で迷ったときの非常食でしかありえないのだ。