(--イラスト BY Sagar Jhiroh)
「考(かん)げえるとつまらねえ。いくら稼いで鼠をとったってえ人間ほどふてえ奴は世の中にいねえぜ。
人のとった鼠をみんな取り上げやがって交番へ持って行きゃあがる。交番じゃ誰が捕(と)ったか分らねえから
そのたんびに五銭ずつくれるじゃねえか。うちの亭主なんか己(おれ)の御蔭でもう壱円五十銭くらい儲(もう)けていやがる癖に、
碌(ろく)なものを食わせた事もありゃしねえ。おい人間てものあ体(てい)の善(い)い泥棒だぜ」
さすが無学の黒もこのくらいの理窟(りくつ)はわかると見えてすこぶる怒(おこ)った容子(ようす)で背中の毛を逆立(さかだ)てている。
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先日の夜、酒屋から出てきた若いサラリーマンがぶつぶついいながら、ベンチに座ったニャン。
「ちぇ、せいせいするぜ」ってネクタイを振りほどいてぶつぶつぶつぶつ。
「課長のやろう、あれはおれの企画だろう!」
「ちきしゅう、横取りしやがって!」
「いつもそうだ、部長の前で、『わたしは便所でいきむときも、風呂で鼻歌うたうときも、立ち食いそばをかけこむ時も、
ラッシュアワーの電車で痴漢に間違われないように両手を上げている時も、いつだって最高の企画を練ってますから、
これでライバル社を出しぬけますね』だと、あれはおれのセリフだ! もう、やってられない! 転職サイトに登録してやるぞ、ちきしょう!」
吾輩は思ったニャン。
―まだ若い、他の会社に行っても同じニャン。平社員は係長に、係長は課長に、課長は部長に、部長は本部長に、本部長は専務に、専務は社長に、
手柄は横取りされるのがサラリーマンの宿命。気を静めたほうがいいニャン
テレパシーを送ってみたけど、逆上した若者にはまったく通じない。ベンチの下の土を蹴って、いててぇ、って足先を押さえてその剣幕といったら。
悪いことに、ベンチの下に潜んでいた吾輩を見つけた。
機嫌の悪い人間ほど怖いものはない。
そっと逃げようとすると、さっと両手に抱えられて、膝に乗せられた。あー、その顔はバーナー焼き猫の愛好家にそっくり。黒の言葉を思い出した。
「若いやつで、スーツを着てネクタイを締めてたな、顔はほっぺが膨らんだふうで」
万事休す! 南無阿弥陀仏!
そう観念したら、思いがけなくも優しく頭を撫でられた。吾輩もほっとしてゴロゴロニャンと喉を鳴らした。
「おまえだけは信じてくれるよな」って呟く。
淋しい人間は、いい友達ニャン。