俗物根性は度し難いニャン 

 吾輩はおとなしく三人の話しを順番に聞いていたがおかしくも悲しくもなかった。
人間というものは時間を潰(つぶ)すために強いて口を運動させて、おかしくもない事を笑ったり、
面白くもない事を嬉しがったりするほかに能もない者だと思った。吾輩の主人の我儘(わがまま)で
偏狭(へんきょう)な事は前から承知していたが、平常(ふだん)は言葉数を使わないので何だか
了解しかねる点があるように思われていた。その了解しかねる点に少しは恐しいと云う感じもあったが、
今の話を聞いてから急に軽蔑したくなった。

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 飼い猫だったころのことニャン。
 我主人スーツ姿でテレビとかいうものに出ていた。驚いたのはテレビに出たからじゃない。不思議なのは、
吾輩の隣で風呂から出て赤いガウンを着た主人が自分の姿を見ながらソファにふん反り返って満足気にウィスキー
を手にしていることニャン。わが主人は二人もいたのか。猫と同様に双子なのだろうか。

テレビの中では―
「そうはおっしゃいますが、マクロ経済的には大成功ですよ。株価はあがる、求人倍率も増加、若者も仕事は
自由に選べるし、派遣万歳、残業代ゼロ万歳。それでこそ人はプロの働き手になれるんです。たとえば私には
残業代はありませんよ。どうです。あなたは、あなたはもらえますか」
 とかなんとかいって、中年のおばさんやおじさんを制してしゃべりまくり、司会者はうんうん頷いている。

「ふふふ、へへへ、バカ者どもが、ひひひひ。ほら、漱石ならバカと利口の区別ぐらいつくだろう、ひひひ」
 実に下品に笑って、ウィスキーを飲んでから、何か思いついたように携帯電話をかける。 

「おい、やあ、やあ君か。あのデブ女が自分の本でおれの政策の悪口を書いているじゃないか。いつものように、
アマゾンにすぐいって、★ひとつつけて、まったく素人はマクロ経済が分からないとか、素人はだからこまるとか、
マクロとミクロの違いもわかっていないとか、いつものように書いておけ。うん、そうだ、君にはいい点をつけてやるよ。
就職先も大丈夫、もちろん、他言は無用だ。ひひひひ」
 吾輩はこの品のない笑いは耐えられないぐらい嫌いで、尻尾が自然と左右に振れちゃう。それを主人は犬と同じく嬉しがっていると勘違いするニャン。バカ!

「ほら、漱石、さすがに利口だなあ。お主人さまの言うとおりだろう。おまえの大好きな 大福だ、食え、わざわざ谷中までいって買ってきてやった。
まったく甘いもの好きとは珍しい猫だ。おれはイカの塩辛だが」
 吾輩は漱石のDNAのせいか猫のくせに甘いものに目がない。とたんにごろにゃんという声をあげてしまう。それでぴょんと主人の膝にのって、
掌の上にある大福を半分口に入れた。

 あれ、なんだかもうひとつおいしくない。心が受け付けないみたい。偽善猫になったからニャン。
 
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