吾輩は漱石猫である

猫属の掟は厳しいニャン

- 三毛君などは人間が所有権という事を解していないといって大に憤慨している。元来我々同族間では目刺の頭でも 鰡の臍でも一番先に見付けたものがこれを食う権利があるものとなっている。もし相手がこの規約を守らなければ 腕力に訴えて善いくらいのものだ …

公園でカラスと決闘してみたニャン

- 茶の木の根を一本一本嗅ぎながら、西側の杉垣のそばまでくると、枯菊を押し倒してその上に大きな猫が前後不覚に寝ている。 彼は吾輩の近づくのも一向心付かざるごとく、また心付くも無頓着なるごとく、大きな鼾(いびき)をして長々と体を横たえて眠ってい…

手柄を横取りする悪い奴は今も昔もいるニャン

(--イラスト BY Sagar Jhiroh) 「考(かん)げえるとつまらねえ。いくら稼いで鼠をとったってえ人間ほどふてえ奴は世の中にいねえぜ。 人のとった鼠をみんな取り上げやがって交番へ持って行きゃあがる。交番じゃ誰が捕(と)ったか分らねえから そのたんびに五…

俗物根性は度し難いニャン 

吾輩はおとなしく三人の話しを順番に聞いていたがおかしくも悲しくもなかった。 人間というものは時間を潰(つぶ)すために強いて口を運動させて、おかしくもない事を笑ったり、 面白くもない事を嬉しがったりするほかに能もない者だと思った。吾輩の主人の…

アメリカ人の虎のを借りる日本人をえらいと思うのはバカにゃん

それほど裸体がいいものなら娘を裸体にして、ついでに自分も裸になって上野公園を散歩でもするがいい、できない? 出来ないのではない、西洋人がやらないから、自分もやらないのだろう。現にこの不合理極まる礼服を着て威張って 帝国ホテルなどへ出懸(でか…

西洋人より昔の日本人のほうがよほどえらいニャン

西洋人より昔(むか)しの日本人の方がよほどえらいと思う。西洋人のやり方は積極的積極的と云って近頃大分(だいぶ)流行(はや)るが、 あれは大(だい)なる欠点を持っているよ。第一積極的と云ったって際限がない話しだ(中略)。 ナポレオンでも、アレキサンダ…

もてる男は天性のもん、背伸びしてもだめニャン

イラスト BY Sagar Jhiroh 元来放蕩家を悪くいう人の大部分は放蕩をする資格のないものが多い。また放蕩家をもって自任する連中のうちにも、放蕩する資格のないものが多い。 これらは余儀なくされないのに無理に進んでやるのである。あたかも吾輩の水彩画に…

美女は心を洗い流すニャン

三毛子はこの近辺で有名な美貌家である。吾輩は猫には相違ないが物の情けは一通り心得ている。うちで主人の苦い顔を見たり、 御三の険突(けんつく)を食って気分が勝(すぐ)れん時は必ずこの異性の朋友の許を訪問していろいろな話をする。 すると、いつの…

人も猫も十人十色ニャン 

よそ目には一列一体、平等無差別、どの猫も自家固有の特色などはないようであるが、猫の社会に這入って見るとなかなか複雑なもので 目付でも、鼻付でも、毛並でも、足並でも、みんな違う。髭の張り具合から耳の立ち按排(あんばい)、尻尾の垂れ加減に至るま…

なんでも食べるニャンは間違いニャン

イラスト BY Sagar Jhiroh 吾輩は猫ではあるが大抵のものは食う。車屋の黒のように横丁の肴屋(さかなや)まで遠征をする気力はないし、 新道(しんみち)の二絃琴(にげんきん)の師匠の所(とこ)の三毛(みけ)のように贅沢(ぜいたく)は無論云える身分でない。 従…

今も昔も悪ガキは怖いニャン

イラスト BY Sagar Jhiroh 吾輩は人間と同居して彼等を観察すればするほど、彼等は我儘(わがまま)なものだと断言せざるを得ないようになった。 ことに吾輩が時々同衾(どうきん)する小供のごときに至っては言語同断(ごんごどうだん)である。自分の勝手な時は…

昔、大和魂、今、改革ー総選挙

「大和魂!と叫んで日本人が肺病やみのような咳をした」 「起し得て突兀(とっこつ)ですね」と寒月君がほめる。 「大和魂! と新聞屋が云う。大和魂! と掏摸が云う。大和魂が一躍して海を渡った。 「英国で大和魂の演説をする。独逸(ドイツ)で大和魂の芝…

行住坐臥行屎走尿は嘘ニャン

猫などはそこへ行くと単純なものだ。食いたければ食い、寝たければ寝る、怒るるときは一生懸命に怒り、泣くときは絶体絶命に泣く。 第一日記などという無用のものは決してつけない。つける必要がないからである。主人のように裏表のある人間は日記でも書いて…

金持ちの家に生まれ変わると予言したニャン

帰って見ると、奇麗な家(うち)から急に汚ない所へ移ったので、何だか日当りの善い山の上から薄黒い洞窟の中へ入り込んだような心持ちがする。 探険中は、ほかの事に気を奪われて部屋の装飾、襖(ふすま)、障子の具合などには眼も留らなかったが、わが住居…

吾輩は100年後に蘇ると予言しておいたニャン

先達(せんだっ)てカーテル・ムルと云う見ず知らずの同族が突然大気(だいきえん)を揚(あ)げたので、 ちょっと吃驚(びっくり)した。よくよく聞いて見たら、実は百年前(ぜん)に死んだのだが、ふとした 好奇心からわざと幽霊になって吾輩を驚かせるために、遠い…

夏目漱石が猫の姿で蘇った?

夏目漱石は、デビュー作「吾輩は猫である」から後半の「行人」「明暗」に到るまで、何が嫌いか、何が苦しいかなどの不平不満を作品で言い続けた作家です。 逆に何が好きかはほとんどいっていません。 すなわち、漱石は、 「金持ちは嫌いだが金が欲しい、探偵…