ベネズエラで初めてラテンを感じる 

 

 
 
 先日、出勤時に、車が突然とまってしまった。いつもにも増して渋滞である。
 数キロ、いや10キロ近く渋滞が続き、うんともすんとも車は動かない。

 「なんだよ、いったい?」

 運転手に聞く。

 「住民のプロテストでしょう」

 Pallitoという地区の住民たちが朝早くから道路を封鎖しているのだ。

 要求は、住居と治安の維持。

 この政府は、遅れてきた共産主義なので、住民への住居の提供を約束している。

 11月に地方選挙がある。

 その選挙を目指して、さまざまな要求がこれから行われる。政府は住民の要求
 を無視できない。勝たなければならないのだ。住民にとってはいまがチャンス!

 道路にはタイヤが積み上げられているのだろう。ボリビアなどだと、これが石に
 変わる。ベネズエラはやっぱ裕福なのだ。

 1時間、2時間、まったく動く気配はない。

 さて、ラテン初心者ならばイライラ、腹が立つかもしれない。

 だが、逆にぼくは元気いっぱいだ。

 このような突然の予期せぬ出来事こそがラテン。

 「なんで、Pallitoの住民はコーヒーやエンパナーダを売りに来ないだよ」

 ぼくはそういって外へ出て、サービスエリアの店にいく。

 「みんな、もう動かないんだから、村にいってフィエスタをしようじゃないか。行こうぜ!」

 と車から出ているベネズエラ人に話しかける。彼らは笑っている。ぼくは本気だが、彼らは本気にしない。
 南米といっても、ベネズエラボリビアやペルーとは違う。ぼくの知っているラテン度とは開きがある。

 さて、お店は満員。行列ができている。

 7時半に車がとまり、今はもう10時を過ぎている。

 ほかの日本人らのための、ジュースやエンパナーダ(中南米中にある肉やチーズのパイ)を頼む。

 店員には「おいしいのを頼むよ。また君に会いに来るから」などと軽口を叩く。

 テレビではオリンピックの中国対ベネズエラの試合を中継している。
 ベネズエラ人に聞かれる。 
 
 「きみはどっちを応援するだい」

 「そりゃ、ベネズエラさ」
 
  ウォーと歓声があがる。そう、ここバレンシアには日本人はほとんでいない。中国人は多い。
  もちろん、ぼくは中国人だと思われている。

 「日本人だからね」

 「おい、車が動き出したよ」
 
  えぇー! まだエンパナーダがひとつ焼けていない。

  あわてて会計口へ行き、「今度、とりにくるよ、証拠に何かくださいよ!」

  すると店員はひとつ分のエンパナーダの金額を返してくれる。

  少しずつ、動き出した車の列を見ると、ちょうど店の前に車がきている。

  あわてて、のっかる。

  結局、職場についたのは11時ころ。本当は7時に着くのだが。

  ほかの企業との会議も今日は延期。

  やっとラテン、非日常を感じて元気が出た日だった。

  それにしれも思う。最近、躁鬱のように気分の上下が激しい。ぼくは退屈に耐えられない。
  日常に耐えられない。とんでもない出来事が起きた時だけ、元気になる。頭が働く。体が動く。

  年齢とともにそれが激しくなってきた。

  ほかの人たちはどうなのだろうか? 

  生きるのは退屈だ。