私有地をかってに占拠する

 

 先日、Puerto Cabelloへ行く途中、人々が道路のわきの空き地へとどんどん歩いて行って、メージャで敷地をはかっている。
「何しているんだい」
「インバソールですよ」
 なるほど私有地への入り込みである。

「メキシコではパラカイディスタ(パラシュート降下人)と呼んだけど」
 私有地、あるいは公有地に入り込み、土地を占拠し、そのうち自分のものにしてしまう。メキシコではその土地問題専門の弁護士もいた。

 真面目な運転手は吐き捨ているように言う。
「まったく、厚顔無恥だよ。選挙だからね。裏で政府が糸をひいていたりもするんですよ。中にはそれを仕事にしているのがいるんだから。ほら彼らだよ。自分の家があるのに他人の土地を占拠して、家を政府につくらせて、それを他人に売るんだよ」

 なるほど、家から歩いて行く家族がいる。散歩に行くように楽しそうに歩いて行く。
日本の公園を占拠するホームレスのような悲惨さがうかがえない。

「でも、土地の所有者は? 裁判にうったえるだろう」
「なにもおこりませんよ。だって、時間ばかりかかって、そのうち既成事実ができる。政府は彼らの味方だから」
「彼らのおやじさんは働いてないの?」
「失業者が多いんでしょ」

 失業者ならばしかたがない。この政府は共産主義を標ぼうしている。仕事がないのならば、家ぐらいやらなくてはならない。そして、仕事よりも、家のほうがずっと提供しやすいのだろう。

 そこで、ラテンアメリカ的な考えが思いつく。
「土地所有者が自分でやれば大儲けだ。自分で自分の土地を占拠させて、それを売って、またそれを占拠して、それを売って、そして政権が変わるときには、本来の所有権を主張できるかもしれないし」
「そりゃ、そういうやり方もあるけど」
 運転手は苦笑い。
 どうも、南米的思考は裏の道へと入り込んでしまう。

 数日後、地方新聞に、ここの土地占拠の記事が出ていたが、「約束してくれたのに、いつになっても家をもらえない」という住民の声がのっていた。
 裏事情の解説はない。新聞記事はここでも何か上っ面だ。