メリダのつづれ折を車で上っていくと、「Año Viejo(行く年)」と子供たちが声をかけてくる。道路の左右に立ち、紐でとうせんぼうをしている。
家の玄関先には、手作りの人形を置かれている。
小遣いかせぎである。でも、ずいぶん詩的なこづかいかせぎなのだ。
ぼくたちは時々、車をとめて、彼らに小遣いを恵んだ。
日本でも七夕の夜は似た行事があった。
浴衣を着てろうそくをもち、「ろうそく出せ、出せよ、出さないとかっちゃくぞ。おまけに食いつくぞ」、と子供たちみんなで夜、近所の家々を練り歩き、おかしなどをもらうのである。
あんな詩的な風習の多くは廃れてしまい、経済的効率だけを目指してきたのが日本である。
メリダの街は山間にある古都である。周辺にはコロニアルな町並みが続く小村が散在する。
その街のひとつ、Mucuchíes で出会ったのが「SAN BENITO」の祭りだった。
ベネズエラの唯一の黒人の聖人を祝う祭りである。人々は顔を黒く塗り、男は銃を手にしている。
ベネズエラはどちらかというと白人系の人間が多い国である。黒人は異形であり、異なるものは強し。だから、戦いの聖人なのである。
銃には火薬が入っている。
街の広場から、教会までを数百人の若者が銃をぶち放ちながら行進していくのである。街中、戦争のありさまで、硝煙の臭いが立ち込め、空には空砲の白い煙がさながら円盤のように舞っていく。
鼓膜がつんざかれる、不思議な祭りであった。