黒魔術1

latinos2009-05-10

 最初にぼくがマクンバ(黒魔術)とであったのはブラジル、リオ・デ・ジャネイロであった。
 
 ぼくはブラジルのバイア サルバドールの旧市街で一時、家出少女といっしょに日々を過ごしていたのだが、ある夜泥酔した翌日に盗難に遇い、パスポートも金も奪われた。不幸にも警察は長らくストライキ中。しかたなく、リオ・デ・ジャネイロに無一文で戻り、そこの知人(女性)のもとへ転がり込んだ。
 
 金もなく、パスポートもない。あったのは、今よりも若かった肉体と精神の自由−というりより、運命のままに生きるいいかげんさ、恐れるを知らない馬鹿さかげん? か。 

 さて、ぼくは春をひさぐムラータ(黒人と白人の混血)の慰めものとなって生きていたのである。

 世界一美しい街と信じて疑わないリオ・デ・ジャイロのコパカバーナの裏手にあるアパート。そこで女たちは、ときおり、こういう。

「あの白人の目狐、気に食わない。やってよ」

 アフリカからの黒人奴隷たちが数百万人と着いて売られた街バイア州、サルバドール(黒人のローマと呼ばれる)出身の若い女友達に頼むのである。

 道具は、神々の人形、カシャッサといわれるサトウキビ酒、はまき、そして憑依に導く巫女が必要だった。
 
 ぼくの女は見事に憑依し、白狐に呪いをかけた。

 しかし・・・・

「なにをやっていたんだ!」

  警察が入り込んできたのである。黒魔術は法律で禁止されている。誰かがちくったのである。

「なにもやっちゃいないわ」
「ふーん」
「あれ、おまえはなんだ!」
 ぼくは女の背にこわごわと隠れていたが、警官の前に姿を現した。

「ぼくは日本人ですよ。でも盗まれてパスポートもお金も無一文!」

 警察はぼくの様子をじろじろ見て、一文も金はとれないとわかり、ちぇ、とがっかりしてきびすを返した。

 あー、よーかった。

 ブラジルの刑務所も拘置所もほんと、評判が悪いのである。

 けれども、巫女として誘導した女は拘置所へ連れて行かれてしまったのである。

 女とぼくは助かった。

「ああ、私、誰にも借金がなかったから、うらまれていないから、それで私だって、ちくられなかったのよ」
 女はそういった。

 それにしてもなぜ、黒魔術ぐらいで、警察が押し入ってくるのだろうか? 

 なお、このムラータとの生活は、『好色一代男 恋愛遊戯その果て』に詳しい。