ベネズエラでワールドカップを見るということ

 ベネズエラはこれまで一度もワールドカップに出場したことがない。だから、かつての日本のように、それぞれが好みのチームをてんでんばらばらに応援している。

 もちろん、一応地理的には南米に位置するので、その当時の日本と比べるとずっと盛り上がってはいる。
ホテルやバーでは、朝昼(ベネズエラ時間では朝9時半と午後2時が試合開始)に大型テレビで試合を放映している。

 お好みのチームの旗を立てて走っている車も多い。目立つのは、スペイン、ドイツ、イタリア、ブラジル、アルゼンチンの強豪チームの旗である。

 他の南米と大きく違うのは、ヨーロッパのチームを応援する人間が異様に多いことであろう。とても南米とは思えない。
 つまり、

「ぼくはスペインの国籍ももっているからね。応援しないと不敬罪だぜ。もう今日は仕事は終わり」

「ぼくのひいおじいさんはドイツから来たんだ。だからなんてったてドイツさ」

「わたしのだんなはイタリア人。スパゲティが一番よ。寿司よりね。でも、ああ、イタリア負けちゃった。今度はオランダよ。私のお母さんはキュラソー(オランダ)の出身だから」

 というわけで、その出自から応援するチームを決めている人間が多い。もちろん、本当のサッカー好きは、チームカラーから応援するチームを決めるのだろうが、そのような人間はまれ、俄かサッカーフアンなのだ。

 だから、ウルグアイとかパラグアイの渋い南米のチームを応援するのは、少数派で、自身がどこの馬の骨かわからない、「わたしのひいひいおじいさんはスペイン、あれイタリアかしら。いずれにしろわたしはベネズエラ人よ」というものだけが、欧州vs南米になった場合、南米のチームを応援する。

 けれども、他の南米の国の場合は、当然、南米を応援するのだ。
たとえば、1986年のマラドーナの大会で、私がいたブラジルの国境の街では、決勝でアルゼンチンが勝利したとき、お祝いの花火が上がったのである。もちろん、それはブラジルにとって苦い歓びであったろうが。
 
 ベネズエラという国がまったくまとまりがなく、国の運営がさっぱりうまくいかないのは、こんなところにも一因がある。