土地価格の怪−福島第一原発―

latinos2011-09-01


 昔、アマゾンに住んでいたころ、隣町に200坪ぐらいの広さでバスケットコートつきの家が売り出されていた。日本円にして500万円前後だった。
 買ってしまうか、と思ったものだ。
 同じ広さでもこうも土地の価格は違う。
 土地にまつわる経済とは不思議なもので、とりわけ日本は土地資本主義のようなありさまを戦後は呈していた。
土地を巡る政治家の不正が目にあまることもあったのだろう。司馬遼太郎さんも「土地はすべて国有にしたほうがいいのでは」といっていた。
 その意味で、田中角栄氏ほど土地転がしで儲けた人間はいまい。柏崎刈羽原発は土地転がしの末、建設された原発である。さて、フィクサーの政治家、堤康次郎がかかわっているのだから、福島第一原発も、やはり疑惑がある。

愛! 福島の黙示録 第3話]」から以下転記する。

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「でも、よく大昔の土地の価格なんてわかったわね」
 今日は彼女のほうが積極的にあれこれ聞いてくる。
「うん、ちょっと昔の資料を見てみたんだよ。柏崎の原発もそうだけど、まあ原発に限らず成田空港とか大規模なプロジェクトの裏では怪しいことが起こっているのさ」
ぼくはもちろん神のメールのことも、国会図書館にまで足を運んだことも触れていない。
予想したとおり、田舎町の町長の名前や昔の出来事を見つけるのは苦心した。インターネット、本屋、古本屋、近所の図書館に、福島の浜通りの小さな町について詳しく書かれたものなどどこにもなかった。ぼくは神のメールを信頼できるかどうかの試金石は、具体的数値のある土地の価格だと考えていた。

役に立ったのは、国会図書館で見つけた『大熊町史』と『追想・町長在職二十二年の軌跡』(双葉町町長田中清太郎)だった。当時の地元の状況、土地利用の変遷、土地売買の価格などが記載されていた。
そのふたつの資料の記載から、メールの指摘は正しいと判断し、ぼくは神の言葉を全面的に信頼するようになった。ぼくはその調査結果をこんなふうに愛ちゃんにしゃべった。

双葉町長町がいっていたんだけど、県開発公社が購入した住民の土地は坪単価270円だったって。民有地の総面積は66万9,000坪だから、総額1億8千万円。一方で大熊町史には全発電所用地96万9000坪の土地価格は総額5億円って書いてあるんだよ。

国土開発の塩田所有地は30万坪。だから5億マイナス1億8千万円で、差額の3億円2千万円が東電から国土に支払われたことになる。すると、ほら、土地価格は坪1000円強だよ。民有地と3倍以上の開き。

当時、塩田も民有地も同じ坪単価にするっていう約束があったみたいなのに、変だろう。その金額がそのまま政商の会社に支払われたか、あるいは差額は誰かのポケットに入っちゃたんじゃないかって疑いがあるわけだよ」

苦手な数値を暗記するのも大変で、じつは掌に薄く数値を書いてちらりちらりと見ながらぼくはしゃべっていた。恋愛には人知れぬ努力が必要だ。

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解説
双葉町田中町長はいろんなところで、町民の土地売買単価は坪270円ぐらいだったといっている。だから、この単価は当たっているだろう。大熊史にある、最初の売買の土地の面積と売買価格の総額が正しければ、以下の計算式が成り立つ。

土地面積=96万9000坪
国土開発面積=30万坪
土地の総額=5億円
民有地=66万9000坪
民有地の総額:66万9000×270=1億8千万円
国土開発の土地の総額:5億円−1億8千万円=3億2千万円
国土開発の土地の単価:3億2千万円÷30万坪=約1000円
本来の価格=270円×30万坪=8100万円
疑惑の金額=3億2千万円‐8100万円=4億1900万円

 浜通りでは、民有地も国土開発の土地も同じ価格で売買すると決められていたはずである。もし国土開発への支払いが、8100万円ならば、4億1900万円はどこにいったのだろうか? 

 土地フィクサー堤康次郎、土地売買の収賄で有罪となった県知事木村守江、下水道工事の不正で辞任した双葉町町長田中清太郎、そして偽善者の東電社長木川田 一隆 と役者はそろっている。
 さまざまに推測されるが、今から、50年以上前のことなので、もう時効だろうし、資料も残っていないだろう。しかも死人に口なし。残念なことだ。

 「愛! フクシマの黙示録]は社会経済小説のジャンルに入れている電子書店もあるが、そうではなく恋愛小説のほうがふさわしい。できるだけ読者層を広げたいのである。このような堅苦しい話は実はそれほど多くはない。
 愛! とは愛ちゃんへの愛、福島への愛、家族への愛、そして原発への愛、を意味している。