ジカ熱か、疥癬か、それともベネズエラ病か(4)

伝統治療しかない

「痛い!」
 肩と首の皮膚がきりきり、ちりちりと音をあげる。塗っているのは、オレガノとニンニクを煎じた粉である。伝統治療以外に方法はなかった。2時間もしないで順番がきて、まるで教会の讒言の窓口のような注文口で、彼女がいくつかの薬品と、石鹸の名を告げたが、努力はすべて無駄になった。しかたなく、もう一軒の薬屋に無駄足を運び、最後にたどりついたのは、植木屋だったわけだ。
 バルコニーにハーブの植木を置いた。

 硫黄入り石鹸の代わりになったのは、昨年訪れたモーゼの泉からとってきた泥である。泉は冷泉となっていて、硫黄分を含んでいるはずだった。もともと、地主が牧場を作る予定だったが、水を飲んだ馬が体を壊したのである。熱帯雨林の中に10を超える泉がある。何か半漁人が出てきてもおかしくない雰囲気。ここにはかの有名なクストーが調査に訪れているという。
ともかく美肌効果があるといって、女性たちが泥だらけになっていた、美しい泉の数々を思い出した。

 これらの民間療法により2、3日で皮膚の痒みがとれるかと淡い期待を抱いたが、悪化こそすれ、快方に至る兆候はない。夜になると、いっそう痒い。眠れない。疲れる。皮膚病だけのはずが、朝起きると、ひどい気怠さである。

 階段の上り下りさえ厳しい。ちらりとみた、新聞の付録の該当する占星術欄に、免疫機能が低下する、と出ている。

 あまりの怠さに、月曜日、火曜日と仕事を休んだ。とはいえ、パソコンである程度仕事を片づけなければならない。さらに、どうしても二日間連続でつまらない件で、銀行に行かねばならなかった。結局埒があかない。あとから判明したが、この世界に一つしかない最悪顧客対応の政府系のBanco de Venezuela銀行こそが、この皮膚病の第一の元凶だったのである。

 疲労が重なる。イライラが募る。痒い。耐え難い。

 水曜日に2週間前に予約していた、皮膚病の専門医を訪れた。もっと、評判のよい医者はひと月以上も先にしか予約ができない。処方箋を書いてもらっても、簡単には薬が手に入らないのだから、実質的には意味がないのかもしれない。でも、人間は病名を与えられなければ、不安なのである。

 ジカ熱か、疥癬か、それともほかの何か? 医者が告げたのは、意外な病名だった(続く)。