初老の大柄な医者は、問診をしたのちに、ぼくの上半身を見ただけで、自信たっぷりにいった。
「仕事がたくさんあって、ストレスがたまっていたのでは?」
「?」
ぼくはジカ熱の可能性を疑っていたので、血液検査をしろといわれるとばかり思っていたのだが。
「何なんですか?」
「神経皮膚炎です」
思い当たる節はある。でも、ベネズエラで仕事でストレスということはめったにない。生活することがもの凄いストレスなのである。たびたび起こる停電、断水、道路封鎖、必需品の品不足。それに、今回はあのバカ銀行が加わった。それにマルガリータのホテルだ。それに飛行機会社だ。
「注射を二度すればなおりますよ」
「肉を食べても大丈夫ですか」
「食べ物も気にすることはありません」
ほんとうだろうか?
半信半疑で、注射液と塗り薬を処方してもらった。さっそく薬屋に行くが、もちろん注射液も塗り薬もない。
ネットで調べてみると、なるほど症状が近い。画像の斑点も似ている。だが、医者を完全に信じたわけではない。理由がある。
一度フットサル大会で若い韓国人チームを相手にしたとき、コートにもんどりうって転倒し、左半身を強く打ったことがあった。そのときも、左腕をつって、ベッケンバウアーのように、プレーを続けた。翌日医者行ってレントゲンをとると、ただの打ち身だといわれた。
痛かったが、ふつうに生活をした。
一か月後、日本で接骨院に行き、念のためにレントゲンをとると、「完全な骨折だ」といわれた。治癒には半年もかかった。
日本でもこのような誤診はあろうが、ベネズエラのほうがずっと多そうだ。
それでも、神経皮膚炎という見立ては悪くない。
熱がないので、ジカ熱ではなさそうだ。疥癬は、2度とも腋の下や陰部など、微妙な部分がとりわけ赤く腫れ痒かったが、今回はそれらの部分は痒くない。だから疥癬の可能性も少ない。
ほかに疑われるとしたら、蕁麻疹とかただの日焼けだろうが、前者にしては痒い期間が長すぎるし、後者にしては病状が重すぎる。
実は神経性皮膚炎という見立てをぼくは気に入ったのだ。ある人にいわせると、皇太子徳仁親王妃雅子さんと同じ症状なのである。(実は間違え)
ぼくのような高貴な人だけがかかる文明病なのだ? と友人たちに吹聴した。
でも日本には該当する薬が簡単に入手できるが、国内に石油産業以外はほとんど何の産業もなく、外貨不足の、この産油最貧国では、とてつもなく困難である。どうする(続く)