Ali Abdel Karim大使におしかけインタビュー


 昨日と違い、シリア大使館の入口の警護官他、名前をいうと大使の客人ということで、丁重な扱いだった。
出迎えてくれた第一秘書官は小柄な美人の若い女性(Reem Jihad Jaber)、できれいな英語を話した。欧米に留学しているのだろう。
 案内されたのは大使の執務室だがそれは戦争中の国に似合わない広くて豪勢な作りだった。もちろん私が泊るホテルと比べての
感覚なので普通の家庭程度なのかもしれない。

 私はソファに座り、右前の机で執務中の大使を待った。秘書管は給仕にコーヒーを頼んだ。
 さて、大使が私の隣に座ったが、穏やかな感じで政治家臭さや官僚くささがない。穏やかな学究肌の人である。日本の大使よりも人あたりはよい。
 意外だったのは、意図的なのか、あるいは本当に英語は不得意なのか、フランス語かロシア語のほうが堪能なのか、秘書管が通訳に入ったことである。
 ということは30分程度という会見時間は半分になってしまう。
 まずは内戦の状況について聞いた。
 
大使―これほど悲惨な戦争はない。ベネズエラのほうが危ないといっているあなたの友達は想像の中でいっているのではないだろうか。
ヨーロッパとアメリカの暗黙の支援のもと、カタールやサウジなどが、100億ドル以上のお金をシリアを破壊するために使っているのです。これは宗教の戦いではありません。スンニー派とかシーア派とか宗教が戦争のために利用されているのです。また、メディアの影響がとても大きくて、8割は虚偽の報道です。

私―ならば、何が原因の戦いなのですか?

 このとき、大使の固定電話に連絡があり、彼は中座したので、秘書官と話した。

私ータルトス沖に巨大な油田が発見されたのが原因のひとつと聞いていますが。実際そうなのですか。噂の範囲を出ないのでは?

秘書官―ええ、本当のことです。それが最大の理由です。

私―いつ発見されたのですか?

秘書官ー2010年です。そして2011年に戦争が始まったのです。もしシリアがその油田を開発するとパワーバランスが崩れます。この地域の強国はイスラエルとシリアなのです。

私ーその油田の大きさは? 

秘書官ー何バレル分あるとか、数値ははっきりしません。シリア、レバノンイスラエルの近海(レバント沖)に油田があります。

 さて中座した大使が戻ってきたので、この間の会話を秘書官が説明する。こうして時間が過ぎてしまう。

大使ー油田の他に、シリアの地理的に重要な位置にあることです。とりわけイスラエルと近い。パレスチナを返還しろ、というのがシリアの基本的立場だから、イスラエルは資金を投入して、貧困者を利用して内部から崩壊させようとしてきたわけです。それでも、シリア人としての精神のもと、6年も闘い、シリアの軍隊はいろんな地域で勝利を収めてきた。

 なんかプロパガンダの臭いがしてきた。

私ー最初はどのように戦争がはじまったのですか? 自由シリア軍や刑務所から解放されたムスリム同胞団の反乱があったと聞いていますが。

大使ーアラブの春がエジプト、チュニジアリビア、などで起こったわけです。このとき、ムスリム同胞団がシリアも内部から崩壊させようと意図したのがはじまりです。シリアは以前は安全な国だった。大統領は3つの医療システムと人材登用システムを作って誰にでも開放して進展を試みてきたが、この危機ですべてが破壊されてしまった。ラタキアやタルトスは平穏だが、でもシリア人はテログループに攻撃されるのではないかという心配をしています。

 ラタキアやタルトスはロシア軍の基地もあり、平穏だったが、一度ロシアのRTテレビが「ロシアのせいで安全だ」というプロパガンダをうちすぎて、ISのテロにあっている。愚かな政治家の口や御用メディアは、バカだからいたずらにテロを煽るのである。

私ー自由シリア軍とかヌスラ戦線はテログループですか?

大使ーアメリカがいう穏健な反対派というグループは存在しません。彼らは過激派で敵や市民の首を掻き切る人々なのです。テロリストです。シリア軍が優勢になっているということだけではなく、実際にはテログループなのだから、だから、アメリカ、ドイツ、フランス、サウジ、カタールなども考えを変えてきた。シリアの政権の崩壊は難しいと。

私ーならば、戦いは外国の侵入者vsシリア人の争いという形なのですか?

大使ーそうとはいえません。シリア人も含めた世界の戦いです。とりわけ、海外メディアが大きな役割を果たしている。日本のメディアもそうだが。

 シリアは日本のアメリカ経由のメディア報道にいつも批判的である。実際日本人は世界をアメリカのメディアの目を通して見ている。とりわけ御用メディア、政府機関紙(それにしても機関紙なのになぜ無料じゃないのか)が「ジャーナリストがシリアに行くのは、非国民だ!」 という論調なのだから救われない。

私ーシリア難民がふくれあがっていますが、日本の支援があるとするとどういう点でできますか?

大使ーたとえば国連決議ですね。シリアに対する国連非難決議は何度か採択されていますが、日本もそれに賛同しています。

 国連人権理事会は、まさにシリアどころではない、人権過少なサウジアラビア王政の主導で何度かシリアの人権侵害の罪を糾弾している。アサド大統領一派は日本も資産凍結などのリストに入れている。

私ー具体的な援助分野とかありますか?
 日本は内戦前は繊維産業の発展などのプロジェクトで調査団が入っているし、あれこれ援助してきた。私の知人も何度か入っている。

大使ー今は内戦を終わらせることです。また、援助もチャリティのようなものはいりません。

 ということで時間がきてしまった。こうして私はダマスカス街道へと向かった。

 帰国後調べてみると、この大使はさもありなん、もともと同業者のような存在だった。文学畑であり、ジャーナリストなのだ。

                                                                                                                                                                                                                                                                                              • -

 Ali Abdul Karim (Arabic: علي عبد الكريم‎‎) (born 1953) is a Syrian diplomat. He is the first Syrian ambassador to Lebanon. Before that he served as the ambassador to Kuwait and as the general manager of the Syrian Arab News Agency (SANA), and official Syrian Television. He holds a B.A. in Arabic Literature from the University of Damascus.

                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • -

 またレバント沖の石油について調べてみると、2010年に油田が見つかり、すでにイスラエルアメリカの石油採掘会社介ししてヨルダンへと輸出を2019年には開始しはじめているはずだ。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                • -

『Oil and Gas Journal』にあたってみると、2010年に地中海沖で天然ガス田が発見されている。イスラエル沖、シリア沖の東地中海の推定埋蔵量は1兆750億m3。ちなみに、LNG化した天然ガスの輸入量は日本が世界最高で、年間1180億m3(2015年)、そのうちカタールからは202億m3輸入している。
シリアは内戦でガス田採掘の余裕はないし、さらに日本を含めた欧米の経済制裁中である。もしそのような制限がなければ、シリアは近隣国へガスを輸出できる可能性があったし、日本さえシリアから天然ガスを輸入する方策もあっただろうから、競争原理で輸入価格はさらに下がっていた。しかも中東のパワーポリティクスも激変する。それを嫌うのは何もカタールだけではない。

 結局、果実を得たのはイスラエルアメリカ企業であった。。内戦のシリアを尻目にイスラエル沖では、米国企業Noble Energy社がガス田採掘を開始し、2013年には早々生産にこぎつけた。そして、昨年9月26日に、総額100億ドル(総計450億m3、15年間)の天然ガス輸出契約をヨルダンと結んだ(『THE JERUSALEM POST』)。イスラエル史上初のエネルギーの輸出となる。 (以上 Wedgeinfinity report)

                                                                                                                                                                                                                                                                                              • -