猫などはそこへ行くと単純なものだ。食いたければ食い、寝たければ寝る、怒るるときは一生懸命に怒り、泣くときは絶体絶命に泣く。
第一日記などという無用のものは決してつけない。つける必要がないからである。主人のように裏表のある人間は日記でも書いて世間に
出されない自己の面目を暗室内に発揮する必要があるかも知れないが、我等猫属に至ると行住坐臥、行屎走尿(ぎょうじゅうざが、こうしそうにょう)、ことごとく真正の日記であるから、別段そんな面倒な手数をして、己(おの)れの真面目を保存するには及ばぬと思う。
日記をつけるひまがあるなら椽側に寝ているまでの事さ。