なんでも食べるニャンは間違いニャン

イラスト BY Sagar Jhiroh

 吾輩は猫ではあるが大抵のものは食う。車屋の黒のように横丁の肴屋(さかなや)まで遠征をする気力はないし、
新道(しんみち)の二絃琴(にげんきん)の師匠の所(とこ)の三毛(みけ)のように贅沢(ぜいたく)は無論云える身分でない。
従って存外嫌(きらい)は少ない方だ。小供の食いこぼした麺麭(パン)も食うし、餅菓子のもなめる。香(こう)の物(もの)は
すこぶるまずいが経験のため沢庵(たくあん)を二切ばかりやった事がある。食って見ると妙なもので、大抵のものは食える。
あれは嫌(いや)だ、これは嫌だと云うのは贅沢(ぜいたく)な我儘で到底教師の家(うち)にいる猫などの口にすべきところでない。

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 驚いた。今の時代は餌なんていわないで、キャットフードっていってお店で売っている。昔は人間の食べ残しだった。
今は贅沢ニャン。でも、おかしい。いいもの食べている三毛子が最近、病気みたいだ。毛の艶がないし、妙に痩せてきて心配だ。
そうしたら、三毛子の主人の床屋のパーマもじゃもじゃおばんと友人のふとっちょおばんとがこう言っているのを耳にした。

「このキャットフード本当は悪いらしいわ。安いから使っていたけど。知っている? 家禽ミートとか、肉副産物って、
病気の動物の肉や皮膚や骨がはいっているって。それにエトキシンとかBHAとかの防腐剤は発がん作用があるらしいわ。だからうちの猫ちゃんにはもうやらない」
「でも、もったいない」
「だから、ほら、野良にやるために持って来た、ほらお食べ」

 パーマもじゃもじゃおばんが腐って死んだ動物から作った超安ものの、薄汚い下卑た茶色いキャットフードを吾輩の足の下に山になるほどぶちまけた。
  
 くずニャン!

 吾輩は怒った。毛を逆立てて、シャーと歯をむいて威嚇した。

「あら、やだ、この野良ったら、お腹すいてないのかしら」
「野良だから、キャットフードなんて見たこともないのよ。ほんとバカ!」 


 そう嘯いて、ふたりのいけすけないおばんは、背を向けて歩いて行った。すると、バカカラスが木の上から飛び降りてきて、腐った肉をあさってる。
 昔は人の食べ残しだったから、尖った骨さえ気をつければよかった。今後は、おばはんやおじさんのくれる食べ物に、気をつけないかんニャン。
 友達になった猫たちにも、ごみあさりはほどほどにしていけって注意してやろう。