よそ目には一列一体、平等無差別、どの猫も自家固有の特色などはないようであるが、猫の社会に這入って見るとなかなか複雑なもので
目付でも、鼻付でも、毛並でも、足並でも、みんな違う。髭の張り具合から耳の立ち按排(あんばい)、尻尾の垂れ加減に至るまで同じものは一つもない。
器量、不器量、好き嫌い、粋無粋(すいぶすい)の数を悉(つ)くして千差万別と云っても差支えないくらいである。そのように判然たる区別が
存しているにもかかわらず、人間の眼はただ向上とか何とかいって、空ばかり見ているものだから、吾輩の性質は無論相貌(そうぼう)の末を
識別する事すら到底出来ぬのは気の毒だ。