シリア内戦は21世紀最悪の石油戦争だった1-ベネズエラ、レバノン、シリア国境でシリア人の肉声を聞く-


本稿はWedgeInfinity掲載レポートの詳細版です。

 シリア内戦はまるで100年戦争である。世界のマスコミでは石油についての言及はなぜか注意深く伏せられている。
 レバノンイスラエル、シリア沖地中海に発見された巨大な原油層は、戦争の原因の大きなひとつである。すでにイスラエル沖では
 商業化され、発掘に携われたアメリカの会社がヨルダンに輸出している。
 原油市場にシリアまで参戦されては、原油国際価格はいっそう下落してしまう。それはサウジ、カタールなど湾岸産油国、イラン、ロシア、アメリカにとっても都合のよい話ではない。紛争が続くことこそが利益になる。
 その背景を考えなくては、シリア内戦は読み解くことはできないだろう。さて、

ベネズエラのシリア人はみなアサドを支持していた

 レバシリと呼ばれるのだが、中南米にはレバノン、シリアからの移民が多い。ブラジルなどには、レバノン系ブラジル人は800万人、シリア系300万人、ベネズエラには80万人のシリア系の人々が暮らしている。パン屋、カフェ、レストランの多くを彼らが経営し、ぼくの食後のコーヒーは、シリア人の経営しているカフェだった。家の周りはアラブレストランだらけだ。
 彼らと話すと、そのほぼ全員が政府側支持で、アサド大統領を悪くいう人間はいない。なにか、日本のメディアやCNNの報道とは大違い。

 そこで最近、シリアから逃れたシリア人に会うため、現在住むプエルトラクルスから以前住んでいたバレンシア市へと、飛んだ。

Tarek Hakim(31):イスラム教徒。シリア現政府の牙城である港町ラタキア(Latakia)市出身である。レバノン船籍のコックとして、ブラジル、アルゼンチン、中国などに渡航経験があり、内戦開始時の2011年初めにシリアを逃れ、今はバレンシア市(Valencia)で「ラタキア」という出身地名を冠した小さなアラブ料理店を経営している。もともとコックではなく自己流で学んだという。

 この店の後背地にはランチョ(=スラム)があり、知人の車から降りるとき、カメラを取り出すと、秘書も知人も叫んだ!
「カメラを見せないで、危ない!」
 もちろん、そんな注意などかまっていては取材などできない。
 
 店をあける準備をしていたTarekに話をきいた。
「2010年に地中海、タルトゥース(Tartus)沖に大油田が見つかった。それがアラブの春の民衆運動に乗じた外国勢力の干渉の一番の理由さ。ぼくは政府支持さ。君らだって他の国、たとえば中国が攻めてきたら戦うだろう。内戦前は、キリスト教徒だろうがシーア派だろうがスンニー派だろうが、問題なく暮らしていた。ぼくの従兄は兵士でISに殺されたし(その後、兄も殺された)、逆にISに入って今はシリア人を殺している親友もいる。ここのチャビスタ(ベネズエラのチャべス派)だって、上に命じられれば勇んで人を殺す奴はいる。狂人はどこにでもいるんだ」

「漁夫の利を得ているのは、トルコだよ。ISから石油を安く買って再販しているし、ヨーロッパに、ドイツに逃げて働こうというシリア人からあれこれ金をまきあげているんだから。今、カリフだっていうバクダディはリビアにいるよ。奴はすごいインテリだけどね。でも千年以上も前のカリフ制国家に戻るなんてバカな話だよ。スンニー派シーア派がまた戦っているけど、何年やるつもりなんだ」
 そういう彼はイスラム教徒だが、どの宗教も平等だと考えていた。多分、アサドと同じ他宗教に寛容なアラウィ派だろうが、ぼくは戦争が宗教が原因とはまったく考えていないので、深く聞くことはなかった。

 店の外で二人でタバコを吸ったときに彼は本音を吐いた。
「ラタキアと比べたら、ベネズエラのほうがずっと危ないし、ひどい。ほら、夕方から一人歩きできないし、ものも薬もない。ぼくの6か月の子は喘息だけど、その薬も見つからないんだ。それに一日4、5時間は停電だし」
 ラタキアやタルトゥースはロシアの基地もあり、できるだけ厳重に警備されている。そもそも戦争なのに、調べてみると観光客が海を求めていまだ訪れているのである。

 その後、Tarekは兄までISに殺され、その日から髭を伸ばして、ベネズエラから消えた。戦闘に参加しに行ったのである。(続く)

 ミスユニバースの国の自由へのバラード:是非、拡散してください。イイ曲ですよ。

 破綻国家ベネズエラの耐えがたい日常 異形の国家が生き延びる理由 独裁を許しておくとこうなるというサンプルです。