猫属の掟は厳しいニャン

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三毛君などは人間が所有権という事を解していないといって大に憤慨している。元来我々同族間では目刺の頭でも
鰡の臍でも一番先に見付けたものがこれを食う権利があるものとなっている。もし相手がこの規約を守らなければ
腕力に訴えて善いくらいのものだ

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 ニャオン、ニョンゥオン、シャー
 ぐっすり寝ていた吾輩は、同属のそんな威嚇の声に目を覚ました。黄色いイチョウの葉をかき分けて、顔を出してみると、朝日を浴びて真っ黒々の吾輩よりも2倍はありそうな猫が、凄い形相で吾輩を睨みつけている。

「おい、まだら、お前は何者だ?」    
「まだら?おいらにはちゃんと名前がある」
「なんていう名だ」
漱石
「ふん、へんな名前だ」
「きみは」
「大黒だ」
「大黒?」
「大きな黒、つまりこのあたりのボスだ。ここはだれの寝場所だと思っている」
「さあ?」
「枯葉のにおいをかいてみろ」

 吾輩はそういうので、イチョウの葉をくんくん嗅いでみた。ほんのりと、いやな臭いがする。だが昨日、雨が降ったせいか、その臭いはさほど強くない。目の前にいる大黒の臭いとは判別できない。
「さっぱり臭いなんかしないや」というと、大黒は吾輩に前足を差し出して、
「鼻詰まり、よく嗅いでみろ!」
その前足をくんくん嗅いでみると、オロルンとボンガレのまじった、つまり、ジャングルの腐るほど熟乱して咲き乱れた植物と、犯罪者がかもしだす臭いがする。おえー! 
「くせー!」
「なんだと!」
 大黒は吾輩の顔に自分の顔をちかづけ、ガオン、ガオン、ガオーンと威嚇してきた。物凄い形相だ。これが有名なネコの睨みあいだ。
 吾輩もまけずにギャ、ギャオンと鳴いてみたが、いかんせん相手は百戦錬磨、身体は吾輩の倍、それに口から出す異臭が耐えがたい。
 吾輩は後ずさりして、ひゅーんと一目散に逃げだした。
「ぎゃははは、覚えておけ、おれはボスの大黒だ!」
 大黒の高笑いが聞こえてきた。

 こうして公園にはルールがあることを知って、その日の昼は自分の場所を確保することについやした。
 
 今は大黒を習って、寝るのは森の中、昼はベンチの上か下と二か所が吾輩の陣地と決めている。もちろん、吾輩の陣地に他の猫が侵入したときには、大国を見習う。
許さないとうことニャン!

 さあ、今年も終わり。人間族のみなさん、よいお年をお迎えください!

公園でカラスと決闘してみたニャン

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茶の木の根を一本一本嗅ぎながら、西側の杉垣のそばまでくると、枯菊を押し倒してその上に大きな猫が前後不覚に寝ている。
彼は吾輩の近づくのも一向心付かざるごとく、また心付くも無頓着なるごとく、大きな鼾(いびき)をして長々と体を横たえて眠っている。他の庭内に忍び入りたるものがかくまで平気に睡(ねむ)られるものかと、吾輩は窃(ひそ)かにその大胆なる度胸に驚かざるを得なかった。

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 吾輩が捨てられたのは真夜中だった。ポーンと公園に投げ出された。でも、暗闇の中でも三半規管の発達している吾輩はひゅーん、ひょいっと地面に立った。人間なら大怪我をしていただろう。
 でもあたりはまっ暗闇。ブランコ、滑り台、砂場はわずかに街灯に照らされている。そばまで歩いた。回りは草むら、木々、その間に青いテントがぽつりとある。どこで寝たらいいのかさっぱりわからない。

 ヒューと冷たい風が吹いた。舞い上がっていた落ち葉が、吾輩の身体に降ってきた。寒い! 
ぶるっと震える。もう秋だ。吾輩は冷暖房完備の家がほんのちょっと懐かしくなった。
公園には、どこにも我が猫属も見当たらず、心細くもある。

 とりあえず、地面より少し低くなっている砂場に入ってみた。砂がふわりとして、家にあったマットのように柔らかい。でも、表面はひんやりと冷たい。砂場と地面の境目にダンボールの切れ端があるのを見つけて、それを前足の爪でずらし、口で加え、どうにか砂場に降ろし、その上にごろんと寝転んでみた。

悪くない。砂より暖かいし、地面よりも風があたらない。遠い昔に車屋に飼われていた、無学の黒が大胆にも吾輩の家の庭でゴーゴーいびきをかいて、眠っていたのを思い出した。吾輩もそれを見習おう。そう思って、うとうとし始めた。ところがー

バタバタバタ、ビューン!

と、風を切る音にはっと目覚めた。猫属はサムライのように熟睡しない。いつ襲われるかもしれない野生の習性がしみついている。ましてや初めての公園寝だ。

 黒い影が吾輩の頭めがけて、物凄い凄いスピードで、舞い降りてきていた。

 バタバタバタ、ビューン

はっとよけた。それはビューンと急上昇し、砂場の横にあるサクラの木の枝にとまった。あとから、わかったがカラスという真っ黒い醜い鳥だ。

 にゃん、シャー!

 吾輩は上を向いて威嚇の声をあげた。ところがカラスの奴、怯まずにカー、カーと吾輩をバカにするように鳴き返すと、ブーンと零戦のように急降下してきた。
シャー!

吾輩は怒りの声をあげさっと二本足で立ち、前足の爪を立てて防御の姿勢をとった。奴は吾輩の目を狙っている。“目には目を”の精神にのっとり、カラスのみじめなほどに細っこい目を狙った。
シャー!

危い。顔をひょいっとよけた。だが、吾輩の爪も空を切った。カラスはブーンと上昇し、カー、カーと威嚇したと思ったら、ポト、ポトンと爆弾のようなものを落としてきた。そのひとつが吾輩の顔を直撃した。
それは吾輩の体温に温められ、たちまち半液体化した。

臭――い!

因果応報 天網恢恢疎にして漏らさず。主人にやったような行為をカラスにやられるとは!
吾輩は脱兎のごとく、森の中へと駆け込んだ。糞攻撃はたまらない。

木の枝でカーーカーカーとカラスは勝利の雄叫びをあげた。吾輩には「わははは、ばかもん」と主人が嘲笑っているように聞こえた。幸いカラスは満足したのか、追ってくる様子はない。

カラスの糞を舐めて顔を綺麗にするのも気味が悪い。臭くて、汚くて、悔しくて、涙が出てきた。ところが、思いがけなくもその涙が汚いカラスの落し物を顔から流し落としてくれた。

ふっと我にかえると、吾輩は山のように折り重なった落ち葉のベットの只中にいた。さっそく、葉っぱ‐後にイチョウと知るーに顔をなすりつけ、汚れを綺麗に落とし、カラスの攻撃を受けないように少し木の枝から離れた地点で葉っぱの中に入り込んだ。ところどころごりごりする丸いものーあとから銀杏と知るーがあるので、それを足で蹴散らした。

葉っぱの中は温かく、やわらかく吾輩はやっと安心する場所を得た。公園にも自然のベットがあった。吾輩はすやすやと眠ることができた。
ところが翌朝、思ってもない事態に遭遇したニャン。

手柄を横取りする悪い奴は今も昔もいるニャン

(--イラスト BY Sagar Jhiroh)


「考(かん)げえるとつまらねえ。いくら稼いで鼠をとったってえ人間ほどふてえ奴は世の中にいねえぜ。
人のとった鼠をみんな取り上げやがって交番へ持って行きゃあがる。交番じゃ誰が捕(と)ったか分らねえから
そのたんびに五銭ずつくれるじゃねえか。うちの亭主なんか己(おれ)の御蔭でもう壱円五十銭くらい儲(もう)けていやがる癖に、
碌(ろく)なものを食わせた事もありゃしねえ。おい人間てものあ体(てい)の善(い)い泥棒だぜ」
さすが無学の黒もこのくらいの理窟(りくつ)はわかると見えてすこぶる怒(おこ)った容子(ようす)で背中の毛を逆立(さかだ)てている。

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先日の夜、酒屋から出てきた若いサラリーマンがぶつぶついいながら、ベンチに座ったニャン。
「ちぇ、せいせいするぜ」ってネクタイを振りほどいてぶつぶつぶつぶつ。
「課長のやろう、あれはおれの企画だろう!」
「ちきしゅう、横取りしやがって!」
「いつもそうだ、部長の前で、『わたしは便所でいきむときも、風呂で鼻歌うたうときも、立ち食いそばをかけこむ時も、
ラッシュアワーの電車で痴漢に間違われないように両手を上げている時も、いつだって最高の企画を練ってますから、
これでライバル社を出しぬけますね』だと、あれはおれのセリフだ! もう、やってられない! 転職サイトに登録してやるぞ、ちきしょう!」


吾輩は思ったニャン。

―まだ若い、他の会社に行っても同じニャン。平社員は係長に、係長は課長に、課長は部長に、部長は本部長に、本部長は専務に、専務は社長に、
手柄は横取りされるのがサラリーマンの宿命。気を静めたほうがいいニャン

テレパシーを送ってみたけど、逆上した若者にはまったく通じない。ベンチの下の土を蹴って、いててぇ、って足先を押さえてその剣幕といったら。
悪いことに、ベンチの下に潜んでいた吾輩を見つけた。
機嫌の悪い人間ほど怖いものはない。

そっと逃げようとすると、さっと両手に抱えられて、膝に乗せられた。あー、その顔はバーナー焼き猫の愛好家にそっくり。黒の言葉を思い出した。

「若いやつで、スーツを着てネクタイを締めてたな、顔はほっぺが膨らんだふうで」

万事休す! 南無阿弥陀仏

そう観念したら、思いがけなくも優しく頭を撫でられた。吾輩もほっとしてゴロゴロニャンと喉を鳴らした。

「おまえだけは信じてくれるよな」って呟く。
淋しい人間は、いい友達ニャン。

俗物根性は度し難いニャン 

 吾輩はおとなしく三人の話しを順番に聞いていたがおかしくも悲しくもなかった。
人間というものは時間を潰(つぶ)すために強いて口を運動させて、おかしくもない事を笑ったり、
面白くもない事を嬉しがったりするほかに能もない者だと思った。吾輩の主人の我儘(わがまま)で
偏狭(へんきょう)な事は前から承知していたが、平常(ふだん)は言葉数を使わないので何だか
了解しかねる点があるように思われていた。その了解しかねる点に少しは恐しいと云う感じもあったが、
今の話を聞いてから急に軽蔑したくなった。

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 飼い猫だったころのことニャン。
 我主人スーツ姿でテレビとかいうものに出ていた。驚いたのはテレビに出たからじゃない。不思議なのは、
吾輩の隣で風呂から出て赤いガウンを着た主人が自分の姿を見ながらソファにふん反り返って満足気にウィスキー
を手にしていることニャン。わが主人は二人もいたのか。猫と同様に双子なのだろうか。

テレビの中では―
「そうはおっしゃいますが、マクロ経済的には大成功ですよ。株価はあがる、求人倍率も増加、若者も仕事は
自由に選べるし、派遣万歳、残業代ゼロ万歳。それでこそ人はプロの働き手になれるんです。たとえば私には
残業代はありませんよ。どうです。あなたは、あなたはもらえますか」
 とかなんとかいって、中年のおばさんやおじさんを制してしゃべりまくり、司会者はうんうん頷いている。

「ふふふ、へへへ、バカ者どもが、ひひひひ。ほら、漱石ならバカと利口の区別ぐらいつくだろう、ひひひ」
 実に下品に笑って、ウィスキーを飲んでから、何か思いついたように携帯電話をかける。 

「おい、やあ、やあ君か。あのデブ女が自分の本でおれの政策の悪口を書いているじゃないか。いつものように、
アマゾンにすぐいって、★ひとつつけて、まったく素人はマクロ経済が分からないとか、素人はだからこまるとか、
マクロとミクロの違いもわかっていないとか、いつものように書いておけ。うん、そうだ、君にはいい点をつけてやるよ。
就職先も大丈夫、もちろん、他言は無用だ。ひひひひ」
 吾輩はこの品のない笑いは耐えられないぐらい嫌いで、尻尾が自然と左右に振れちゃう。それを主人は犬と同じく嬉しがっていると勘違いするニャン。バカ!

「ほら、漱石、さすがに利口だなあ。お主人さまの言うとおりだろう。おまえの大好きな 大福だ、食え、わざわざ谷中までいって買ってきてやった。
まったく甘いもの好きとは珍しい猫だ。おれはイカの塩辛だが」
 吾輩は漱石のDNAのせいか猫のくせに甘いものに目がない。とたんにごろにゃんという声をあげてしまう。それでぴょんと主人の膝にのって、
掌の上にある大福を半分口に入れた。

 あれ、なんだかもうひとつおいしくない。心が受け付けないみたい。偽善猫になったからニャン。
 
 猫愛好家は見てみてね↓
 PECO
 ペトこと
 ねこちゃんホンポ
 
 

アメリカ人の虎のを借りる日本人をえらいと思うのはバカにゃん

 それほど裸体がいいものなら娘を裸体にして、ついでに自分も裸になって上野公園を散歩でもするがいい、できない?
出来ないのではない、西洋人がやらないから、自分もやらないのだろう。現にこの不合理極まる礼服を着て威張って
帝国ホテルなどへ出懸(でか)けるではないか。その因縁(いんねん)を尋ねると何にもない。ただ西洋人がきるから、
着ると云うまでの事だろう。西洋人は強いから無理でも馬鹿気ていても真似なければやり切れないのだろう。

 長いものには捲(ま)かれろ、強いものには折れろ、重いものには圧されろと、そうれろ尽しでは気が利(き)
かんではないか。気が利かんでも仕方がないと云うなら勘弁するから、あまり日本人をえらい者と思ってはいけない。

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 吾輩を拾ってくれた美禰子の兄貴の翔太は金髪だった。混血かと思ったけど、母親の富子は背が低いし、鼻も低い、見るからに日本人。
翔太も背は高いけど、鼻は低いし、話すのは日本語だし、その身のこなしも、決して外国産ではない。でも街に出てみると驚いたニャン。 
 金髪日本人がたくさんいる。不思議だ?!

 そこで或る夜、吾輩は探偵のように抜き足差し足で、家の中で翔太のあとをひっそりとつけてみた。すると、キッチンの横を通って、
洗面所へ行った翔太が、鏡を見てにやにや笑い、上着を脱ぐと、頭髪に金色の液体をかけていた。染めているニャン。
 歌舞伎役者なら化けるのも分かる。我が同族にも化け猫属がいる。でも、黒が白に、キジがミケになったとは、聞いたことがない。

 イケメンになりたいと思っても整形したり、自分の毛の色を変えるネコはいない。我が猫属は諦めているニャン、いや、いや自分の
姿に誇りを持っているニャン。明治時代はさすがに恥の感覚がまだ残っていたから、金髪に染める日本人はいなかった。
でも、今は違う。それというのもやっぱりアメリカの影響ニャン。

 ほら、今も公園で、小学生どもが、「ハロー」といって金髪の外人カップルに手を振っている。振られたほうは、手を振り返したが苦笑いだ。
吾輩はイギリスにいたので英語ぐらいはわかる。そのカップルが話していたのは断じて英語じゃない。フランス語かロシア語かルーマニア語か、なにかだ。
アジア人以外の外人はみんなアメリカ人と思うのが、日本人だ。

 それもしかたないと思う。上からしてそうなのだから、若者は影響される。先日も例のベンチで学生らしき二人がこんな話をしていた。 

「あのごてごての金髪かっこういいな」
「ゴルフもうまいし」
「うちのおえらいさんはいっしょにゴルフやってバンカーでころんじゃった」
「構わずにニヒルに打ち捨てて次のホールに歩いて行くのがかっこういい」
「待ってくだんせい、親分、ごてごての金髪が風に揺らいでますぜ!」
「そういったのに知らんぷり」
「でも、転んでも起き上がって、すがりついていくのだから、そのほうが偉い。恥も外聞も捨てて生きる! 選挙には勝つ! 3浪のおれも見習わなきゃな
 Never give up!」
「おつ、かっこいい、どうせなら、おれもあの国で生まれたかった」 
 
 中身があろうがなかろうが、アメリカ万歳! 

  吾輩は新潮45いつまで続く猫ブーム」12月号でデビューしたニャン。読んでみて。
  WEDGEInfinityカタールに出稼ぎに行ってみたが、まさかの派遣切りに もよろしく。

西洋人より昔の日本人のほうがよほどえらいニャン

 西洋人より昔(むか)しの日本人の方がよほどえらいと思う。西洋人のやり方は積極的積極的と云って近頃大分(だいぶ)流行(はや)るが、
あれは大(だい)なる欠点を持っているよ。第一積極的と云ったって際限がない話しだ(中略)。
 ナポレオンでも、アレキサンダーでも勝って満足したものは一人もないんだよ。人が気に喰わん、喧嘩をする、先方が閉口しない、
法庭(ほうてい)へ訴える、法庭で勝つ、それで落着と思うのは間違さ。

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 100年振りに蘇ってみれば、明治時代の日本人のほうがまだましだったかもしれないと思う常日頃だ。
現代の日本はヨーロッパではなく、なにがなんでもアメリカの真似だ。アメリカの言うとおりだ。
吾輩がいないうちにアメリカと戦争までして負けた影響か。もともと「長いものには巻かれろ」、
「寄らば大樹の陰」という諺がある弱小の島国だからか。

 吾輩は生きていたころの強国はイギリスだった。だから吾輩もイギリスに留学した。けれども、吾輩はイギリスかぶれになら
なかった。吾輩は留学中にイギリスの失敗を見て日本の将来を危惧して手紙を書いた。

―欧州今日文明の失敗は、明らかに貧富の懸隔甚だしきに基因致候、この不平均は幾多有為の人材を年々餓死せしめ、
凍死せしめ、若しくは無教育に終らしめ、却って平凡なる金持ちをして愚なる主張を実行せしめる傾なくやと存候。
日本にて之と同様の境遇に向かい候は(現に向いつつあると存候)、かの土方人足の智識文字の発達する未来に於いて
は由々しき大事と存候(1902年3月15日付中根重一宛)


 それが今は学者も政治家もアメリカに留学してアメリカかぶれ。吾輩の主人もその最たるものだったニャン。
「おれはハーバード大を出て、ウォール街はみんな知り合いだ」といって威張っていた。
 テレビでも「痛みに耐えて構造改革!」「聖域なき構造改革!」「痛みのあとは楽しい極楽」とかいって宣伝した。

 なんのことはない。吾輩は冥土から見下ろしていたけど、あの時代の日本は、みんな痛いだけで、毎年3万人も自殺して、
1998年〜2011年まで14年間で40万人以上の人が自ら極楽に行ってしまったニャン。

 それもこれも財界も新聞社もアメリカかぶれで、ミルトンなんとやらの理論が素晴らしいと喧伝して、みんな騙された。
痛いだけだったニャン。この世で極楽に行けたのは一部のお金持ちニャン。

 その証拠がこの公園。
 最近、捨猫ならぬ、若い世捨てられ人が新たに公園に住みはじめたニャン。

 アメリカはあのとき、キューバに侵攻していたら、全軍全滅したニャン。ちょっと固いお話だけど、歴史の智識は大切なので
読んでみて。

もてる男は天性のもん、背伸びしてもだめニャン

イラスト BY Sagar Jhiroh

 元来放蕩家を悪くいう人の大部分は放蕩をする資格のないものが多い。また放蕩家をもって自任する連中のうちにも、放蕩する資格のないものが多い。
 これらは余儀なくされないのに無理に進んでやるのである。あたかも吾輩の水彩画に於けるがごときもので到底卒業する気づかいはない。
 しかるにも関せず、自分だけは通人だと思って済(すま)している。料理屋の酒を飲んだり待合へ這入(はい)るから通人となり得るという論が立つなら、吾輩も一廉(ひとかど)の水彩画家になり得る理窟(りくつ)だ。
 吾輩の水彩画のごときはかかない方がましであると同じように、愚昧(ぐまい)なる通人よりも山出しの大野暮(おおやぼ)の方が遥(はる)かに上等だ。

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 吾輩が書いた「坊ちゃん」は江戸子だ。でも、吾輩は新宿牛込の生まれ。厳密には江戸っ子じゃない。3代続いて神田浅草下谷深川で生まれで、人気の待合などの粋を知った放蕩者。
 それが江戸子の条件。今でいえば、流行りのレストラン、料亭、スナック、メイドカフェを知らなきゃ江戸子じゃない。女にもてなきゃ江戸子じゃない。てやんでぃ。バカ者の言い草ニャン。

 吾輩漱石は明治時代あれこれ人気の待合やリストランを苦労して調べて、その知識を三毛子や美穪子にひけらかしてみたてけど、まったくもてなかった。
 だから、吾輩の書くのは悲恋ばかし。女との間合い、肌の触れかた、しゃべり方もついにはわからなかった。一人の女がすく男は、多くの女がすく。それを羨んでもしようもない。天性のものだ。天性の歌手や絵描きと同じだ。

 この公園にだって、もてもての猫はいる。玉三郎だ。丸顔で、目がくりっとして高貴な血が流れている雰囲気がある。三毛子や他の雌猫の白も時々ぼうっと見つめている。黒が無理にちょっかいだしても、さっさと逃げて玉三郎の元へ走っていく。ボッチなど嫉妬から玉三郎にからんでいたところ、白に猫パンチを食らわせられていた。

 猫も人も同じニャン。
 先日公園でOLが話しているのを耳にした。
「街こん最悪。話しかけてきた男がさ、背伸びしちゃって。フランス料理は六本木のどことか、イタリア料理は麻生のどことか、赤ワインはメルローじゃなきゃとか、そんな講釈ばかりいって、そのくせ着ているものったらすごいダサいの。それに忖度って言葉の意味さえ知らないのよ」
「気軽に谷中でおでんでも食べるほうがましね」
 お里は自然と知れちゃうニャン。

 吾輩も地球の裏側のアマゾンに行けば、もてるかもしれないニャン 読んでね。