アメリカ人の虎のを借りる日本人をえらいと思うのはバカにゃん

 それほど裸体がいいものなら娘を裸体にして、ついでに自分も裸になって上野公園を散歩でもするがいい、できない?
出来ないのではない、西洋人がやらないから、自分もやらないのだろう。現にこの不合理極まる礼服を着て威張って
帝国ホテルなどへ出懸(でか)けるではないか。その因縁(いんねん)を尋ねると何にもない。ただ西洋人がきるから、
着ると云うまでの事だろう。西洋人は強いから無理でも馬鹿気ていても真似なければやり切れないのだろう。

 長いものには捲(ま)かれろ、強いものには折れろ、重いものには圧されろと、そうれろ尽しでは気が利(き)
かんではないか。気が利かんでも仕方がないと云うなら勘弁するから、あまり日本人をえらい者と思ってはいけない。

                                                                                                                                                                                                                                                                                • -

 吾輩を拾ってくれた美禰子の兄貴の翔太は金髪だった。混血かと思ったけど、母親の富子は背が低いし、鼻も低い、見るからに日本人。
翔太も背は高いけど、鼻は低いし、話すのは日本語だし、その身のこなしも、決して外国産ではない。でも街に出てみると驚いたニャン。 
 金髪日本人がたくさんいる。不思議だ?!

 そこで或る夜、吾輩は探偵のように抜き足差し足で、家の中で翔太のあとをひっそりとつけてみた。すると、キッチンの横を通って、
洗面所へ行った翔太が、鏡を見てにやにや笑い、上着を脱ぐと、頭髪に金色の液体をかけていた。染めているニャン。
 歌舞伎役者なら化けるのも分かる。我が同族にも化け猫属がいる。でも、黒が白に、キジがミケになったとは、聞いたことがない。

 イケメンになりたいと思っても整形したり、自分の毛の色を変えるネコはいない。我が猫属は諦めているニャン、いや、いや自分の
姿に誇りを持っているニャン。明治時代はさすがに恥の感覚がまだ残っていたから、金髪に染める日本人はいなかった。
でも、今は違う。それというのもやっぱりアメリカの影響ニャン。

 ほら、今も公園で、小学生どもが、「ハロー」といって金髪の外人カップルに手を振っている。振られたほうは、手を振り返したが苦笑いだ。
吾輩はイギリスにいたので英語ぐらいはわかる。そのカップルが話していたのは断じて英語じゃない。フランス語かロシア語かルーマニア語か、なにかだ。
アジア人以外の外人はみんなアメリカ人と思うのが、日本人だ。

 それもしかたないと思う。上からしてそうなのだから、若者は影響される。先日も例のベンチで学生らしき二人がこんな話をしていた。 

「あのごてごての金髪かっこういいな」
「ゴルフもうまいし」
「うちのおえらいさんはいっしょにゴルフやってバンカーでころんじゃった」
「構わずにニヒルに打ち捨てて次のホールに歩いて行くのがかっこういい」
「待ってくだんせい、親分、ごてごての金髪が風に揺らいでますぜ!」
「そういったのに知らんぷり」
「でも、転んでも起き上がって、すがりついていくのだから、そのほうが偉い。恥も外聞も捨てて生きる! 選挙には勝つ! 3浪のおれも見習わなきゃな
 Never give up!」
「おつ、かっこいい、どうせなら、おれもあの国で生まれたかった」 
 
 中身があろうがなかろうが、アメリカ万歳! 

  吾輩は新潮45いつまで続く猫ブーム」12月号でデビューしたニャン。読んでみて。
  WEDGEInfinityカタールに出稼ぎに行ってみたが、まさかの派遣切りに もよろしく。