今日、ホームレスに戻った その4

★原宿で遺体を探す
★因果応報ホームレス

「いまは路上で寝てるけど、思えば子供の頃はうちみたく畳なんか敷いている家はお大臣でね。普通の家はむしろだったんだよ。靴さえなくて、裸足か、よくて草履だな。まだ戦争をしていたころでね。兄弟? おれは七人兄弟の末っ子だよ。だから口減らしで中学を出たら上京したさ」
 おれはさっそくこの老人の転落人生の軌跡を聞きたくなった。人の不幸は蜜の味なのだ。
「金の卵ってやつですね。どこで働いたんですか?」
「蔵前橋のそばのパン屋。これで食いっぱぐれがないって、大喜びしたよ。パンはいくらでも食えたからね」
 この言葉はよくわかる。実はおれも、この数年後、準ホームレス生活にも限界がきて、奇跡的に肉屋に就職した。しかもラーメン屋のチエ―ン店を持ち、居酒屋も経営している企業だった。肉には不自由しなかった。おまけにおれはNiftyの厳選レストランで、レストランの格付け・原稿を書くことのできるカリスマフードアナリストの称号を取っていた。

 ある日、何年か振りで田端の駅前で托鉢中の上野テント村の修行僧にばったり出会った。修行僧はホームレスから脱皮したおれのスーツ姿をみて、驚愕の表情だった。おれはもっと驚かそうと、就職先をいった。
「えっ、肉屋ですか。じゃあ、飢えることはありませんね」
 まるで憧れのスターに出会ったときのように、羨望の目でおれを見たのだった。けれども、その後、おれはラテン美女たちの是非来てくれという求めに応じて、うっかり会社を辞め、南米へ旅立ち、帰国後の今は、落ちぶれてしまった。

 この老人もおれと同じだった。やはり色気づいてしまったのだという。三年でパン屋を辞めてしまった。
「トリスバーにいったら、きれいな女はいるし、酒はあるしで、バーテンになったんだな」
 彼はそれ以来バーテンで、日本橋、新宿、銀座などの店を転々として、女をとっかえひっかえに楽しんで、そして渋谷に自分の店を持つまでになった。店はじゃぶじゃぶに儲かったとさ。
「だって酒は水で薄めているだもの。ボトルには三種類あってね。水半分、水三分の一、水なしの本物とね。客に奢ってもらうのは、ボトルに入った水半分の酒でね。それをまた水で割るんだから、酔った振りをするのが大変だったな」
 ちぇ、悪徳飲屋か。道理で水っぽい酒を出す飲屋が多いわけだ。おれは渋谷のあるバーの水割り、高田馬場のある居酒屋の日本酒にずっと不信感を抱いていた。
 因果応報、悪徳商法は最後に鉄槌が振り下ろされる。
「うん、因果応報か。そのとおりだな。じゃぶじゃぶ儲けてじゃぶじゃぶ使ったんだ。気前良すぎたんだ。店がひけたら、スタッフや馴染み客を引き連れて飲み歩いていたからね。数年でだめになっちまって。それからは雇われマスターさ。でもいつもうっかりしているうちに契約期間が過ぎて、それで終わり。そのうちこんな年になっちまって…」
 若いときから派遣業界を渡り歩いているおれにも身につまされる話だ。
 老人はふっとため息をつくと、思い出したようにタバコのお礼にと、ベンチに置いた紙袋の中に入っていたチリ紙に包まれた揚げパンを差し出してきた。おれは丁重に断った。彼は話しながらさかんに腹のあたりをかいているのをおれは目ざとく気づいていた。南京虫か何かをかっているのかもしれない。
 すると今度は、黒いバックをあけた。その中から、下着二枚、Tシャツ一枚、折り畳み傘二本、そして風呂敷包みを取り出した。その風呂敷包みを開けると、中には、正露丸、目薬、風邪薬、オロナイン軟膏、サロンシップ数枚があった。
「好きなのを選びなよ」
 気前がよい。この気前の良さがホームレスへと陥った原因の一つというわけだ。おれは折り畳み傘を所望し、礼をいった。そして聞いた。
「今夜はどこで眠るですか?」
 目の前のベンチはその真ん中が二つに区切られている。ホームレスよけの棒が最近付け加えられているのだった。公園も満員で、テントを張れそうにない。
「雨なら地下道、晴れなら、どこかなぁ…」
 老人はすぐ横のにベンチに視線を落とした。
「一度、ベンチのこの木を切っちまおうかと思ったけど、隣にいた奴が『怒られるからやめろっ』て。じゃあ、『植え込みを切ってそこにテントを張る』っていったら、『区の建設局が詳細な写真を二メートルおきに取っているから、とんでもない』っていわれたよ」
 渋谷駅周辺もずいぶんと世知辛くなっているようだ。
 おれはいった。
「もし、雨だったら、地下道で会いしましょうか」
「ああ、そうだな。それから、腹が減ったら夜中に渋谷駅のパン屋が夜一二時に、余ったパンを配ってくれるよ。それをもらっているスーツ姿の人もたくさんいるんだから、凄い時代だよな。まあ、あんたはまだ若いんだから気を落とさずにな」
 そういって慰めてくれた。(ブロイラーの呪い、に続く)

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★ところで、自発核分裂だ、いや再臨界だ、とか東電がいい、報道もそのまま伝えているが、今さら、なにをいっているのかといいたい。そもそも3号機の小規模核爆発のときには37万ベクレルのヨウ素135と大量のキセノンが観測されている。
 高崎の観測所(核実験の国際的観測​機関)や放射線関連の大学の学部では観測されてるのだ。
 後に高崎は停電で誤認した、とウィーンの本部が発表する。しかし、ぼくが高崎を管轄する日本原子力開発機構の担当者に確認したところ、高崎で停電で数値を誤認した事実はなく、正しい数字をウィーンに送っている、と答えているのである。
★来週は久しぶりに上野公園で、最近ねむりやすい場所を探すことにした。ついでにあるテレビ局のディレクターもいっしょに探してくれるらしい。上野編 ホームレスデビューの惨劇 (ホームレスパパ)を応援してね。