仮面を剥がされたサウジアラビア ムハンマド皇太子(3)

格差は続く
 最近のサウジの事情が知りたく、今年の6月、プラント技術者のTさん(キャリア40年)に数年ぶりで会った。2014年10月〜15年4月まで中東最大のジュベール工業都市でジェット燃料生産プラントの建設現場で働いていた。施工は韓国系の企業でオーナーはアラムコである。

 石油精製、石油化学、鉄鋼などのプラント工業群から成る、ジュベールには日本の主要な建設会社やエンジニアリング会社は一度は進出したはずだ。筆者もジュベール港出港のサウジ産の鉄加工品を別の国で何度も受け取ったことがある。

 「暑い? だから今回はまだ過ごしやすい4月〜10月だけの勤務にしたんだよ。命令するほうだから、勤務はそんな大変じゃなかった」
 「息抜きといえばバーレンに行くぐらいかな。食事はインド、フィリピン、インターナショナルの3種類が食べられるようになっていたよ」
 筆者と違い位が高いので一時カタールにいたときのように私のように残業、残業というわけではない。

 他の国の人はどうなのだろうか。

 「フィリピンとインドは職場の中間層で、仕事や生活もまだ余裕があるんじゃないかな。フィリピン人は家族も呼んでいた。外人女性も外ではアバヤを被っていたな。大変なのはクラークや掃除夫のネパール人で、知り合ったひとりは朝から夜まで働いて残業代を稼いで、長年サウジから家族に仕送りをしていた。月給? 1000ドルいくかいかないかぐらいじゃないかな」

 世界中どこでも勤務時間が長く辛い職種に限って報酬は少ない。とはいえ、ネパール国内の建設労働者は月給100ドル前後だろうから、10倍にもなる。

 「サウジの人間も何人かいたよ。何割か雇わなきゃいけないって政策だからね。でも彼らは新聞を読むか煙草を吸っていたな」

 サウジアラビアは人口の3分の2ほどを30歳以下の若年層が占め、失業率は20〜30%。政府はサウジ人の雇用を増やす(サウダイゼーション)意向だが、そう簡単ではない。何ら税金はなく(2018年から消費税5%導入の予定)、教育も無償となると、勤労意欲は湧かない。せいぜい公務員になって日に2、3時間就労すればいい。また、初等教育が義務教育として確立したのは2004年である。

 「プロジェクト本部はリャドにあったから、そこまで車で4時間の行程で、途中テントとか仮小屋のような家を見たね。あと、アラムコのプロジェクトに従事する人間は別格だよ。30歳そこそこでベンツに乗っているし、欧米に留学している。我々に命令するほうだから。アラムコのあえらいさんが一時日本に新婚旅行できたよ。成田から電話が突然きて、案内にしろっていうのさ」
「そういえば、映画館の建設が許可されたみたいだな」


 外は灼熱だ。宗教警察の目も光っている。冷房のきいた映画館もまだないのだから、人々は自然ゲームなどの室内の娯楽に関心を持つ。だから、日本のオタク文化好きがたくさんいる。経済改革計画「ビジョン2030」は娯楽面の拡充もうたわれ、17年の2月にはジェッダで、オタク文化の祭典『コミコン』が開催されて2万人前後が参加したという。

 けれども映画の上映には保守的な宗教界が反発している。王家は宗教警察の力を削ごうとしていて、宗教界と王家の綱引きが続いている(サウジ版維新の行方に続く)。

フェイクニュースはこうして広まり、定着し、真実となるーべネズエラの「インフレ率1000万%」を人はなぜ信じるのか? 掲載されました。ノーベル医学生理学賞 本庶佑さんがおっしゃるようにどんな権威だって信じてはいけない、はあらゆる面で当てはまる例です。