6.謀略、偽旗作戦か?
私は犯行声明を出したフ―シー派がイランの武器を使って攻撃したと考えるのが自然だと思っていた。これまでも、彼らはサウジ領内を何度もミサイルやドローンで攻撃している。
けれども、もちろん、疑惑は残る。日本のタンカーを攻撃した主体が今も曖昧なままであるとおり、曖昧であってほしい勢力がいる。そもそも米国とイランの和解の兆しが生じると、すかさず何らかの攻撃がある。両国の和平を望まない勢力が攻撃していると考えることができる。イランの経済封鎖を解いてもらってはこまる。それを忌避する2つの中東の主要国は、あまりに明白である。
イランの中にもそのような組織があるのかもしれない。私はイラン人やイラン政府は、イスラム文化やその気質からして、わざわざイランを訪れた安倍首相のメンツを潰すようなことをしないと信じていた。また、神聖政治ならば国は一枚岩と考えていた。けれども、特殊作戦を任務とする諜報・軍事組織ゴドス軍(Quds Force)は、それに当てはまらないと考えるようになった。彼らは政府上層部でさえ、手を出せない存在のようだ。
たとえば、1991年にサルマン・ラシュディの小説『悪魔の詩』を翻訳したことで五十嵐一筑波大学助教授は暗殺された。その犯人はゴドス軍だった可能性が取り沙汰されている。また、彼らは1994年にアルゼンチンのブエノスアイレスにあるユダヤ文化センター爆破テロを実施し、85人を殺害し、200人以上を負傷させている。2015年には、アルゼンチンの検察官ニスマン氏が何者かに殺害されている(自殺として処理)。彼は当時のクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領、カルロス・メネム元大統領(在任期間:1989~99年)がこのユダヤ文化センター爆破テロ事件においてイランとの間で密約を結んでいたと主張し、裏どり捜査をしていた。
またゴドス軍はベネズエラの旧チャべス政権、現マドゥロ政権とは親密な関係であろうと推定される。ただし彼らの犯行らしくないところもある。今回の攻撃は人を傷つけておらず、血生臭くない。いずれにしろ彼らゴドス軍は日本を決して友好国としては見ていない。
これらの機関や国が関わっている場合、今回の攻撃は陰謀、謀略説の中へ入っていく。日本では謀略説などは一般に忌避する傾向にあるが、ほとんどの戦争は謀略により始まるのが通例と私は考えている。
7.なぜ、9月末でプラントは修復されるのか
中東や南米のプラント現場で数年働いた経験からすると、大規模な攻撃を受けたのだからプラントを修復し、生産を同水準に戻すには少なくとも数カ月かかるものと想像していた。石油プラントは世界中から集めた何千という部品でできているのだ。ところがサウジアラビアは一月もしないうちにプラントは修復され、生産も元に戻るというのである。
攻撃されたアブカイクのSTABILIZATION PROCESS UNITは、原油から不純物、とりわけ毒性・爆発性の硫化水素を取り除くための施設である。アメリカが公表した衛星写真による被害状況と私が入手した同プラントの概略図を重ね合わせると、ドローンの攻撃はピンポイントだったことが明白である。被害を受けたのは、LNG Storage tankと、 Oil processing unit内にあるProcecessing trainsと他らかの小規模施設である。鉄の塊であるタンクやパイプラックのみに被害が留まれば、サウジアラビア国内で修復可能かもしれない。
ところが、processing unit がかなりの被害を受けている。ここには、Compressor, Stripper,Desalter, Heat exchanger, Steam Metane Reformer, Boiler、Stabilization Towerなどのいずれか複数が設置されていたと思われる。またコンピューターからなる制御系も破壊されたかもしれない。AFPの報道よると、アラムコは「重要施設であるStabilization TowerとSeparatorが被害を受けた」と言っている。実際公開されたアブカイクの被害現場の写真を見ると、主要設備の一部が丸焦げになっている。
これらの設備が破壊されているならば、その取り替えに少なくとも数カ月は要するのではなかろうか? アラムコは破壊された機材の仕様を確認し、韓国、日本、ドイツ、アメリカなど世界中にちらばる企業に発注をかけ、受注企業が生産し、船積し、輸入通関し、数百トン、数十メートル長の重量物を専門の運送業者に運搬してもらい、大型クレーンをレンタルし、それらの機材を設営し、技術者がメーカーから派遣され、試運転する。簡単ではない。
数週間で修復されるというのは、まったく謎だ。
最後に、日本施設が攻撃を受ける可能性があるとする予測について述べよう。
8.ペルシャ湾岸の重要施設は日本とも関係が深い
まずアブカイクの地理を把握する必要がある。アブカイクで精製された石油は、パイプラインを通じて、北東約140キロの地点にあるラアス・タンヌーラの石油積み出し港に運ばれ、タンカーで日本などに輸送される。また、ラアス・タンヌーラには、日本のプラント企業が設立した高効率のコジェネレーションプラントがあり、アブカイク精油所に電力を供給している。
さらにラアス・タンヌーラから北西へ90キロほどいくと中東一の化学工業都市ジュバイルがある。私はこの都市のあるメーカーからある素材を輸入し、ジュバイルの港から積み出した覚えがある。さらに、そこから北へ100キロ進むと、 "Minerals Industrial Cityの称号を持つ"Ras Al Khairがある。ここには、さまざまな化学プラントがあるが、重要施設のひとつは、淡水化プラントである。このプラントは、韓国企業が受注し建設したものだが、重要な機材には日本の化学メーカーの海水淡水化用逆浸透膜エレメントや、機材メーカーのポンプが使われている。
ペルシャ湾にはこのような重要施設が密集しており、日本企業とも関係が深い。ホルムズ海峡の封鎖がよく警告されるが、敵味方問わず産油国にはこの海峡は重要なのだからそれはありえまい。むしろ、これらプラントなどの重要施設、主要な港を叩けば、石油やガスの輸出は止まる。そのほうがずっと現実的である。実際、上述した施設は、今もドローン攻撃の危機に晒されている。
9.日本が中東紛争に手を出すと…
安倍首相は9月23日~28日の日程で米ニューヨークとベルギー・ブリュッセルを訪問するという。ニューヨークでは、トランプ米大統領との会談に加え、イランのロウハニ大統領と会談する(24日)。けれども、諜報のない日本が火中の栗を拾うのはよくよく考えたほういい。
安倍首相が中東の首相や大統領と会談すると、何かが起こってきた。日本はアメリカの代替攻撃目標なのである。
2015年1月21日:安倍首相がイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談し、ISIL対策として,日本が総額2億ドルの新規支援を行う旨紹介した。その数日後、ISILの人質となっていた湯川さん、そして後藤さんが殺害された。
今年の6月12日:安倍首相はアメリカとの橋渡し役になろうと意気込んでイランを訪問し、ロウハニ大統領、およびハメイニ最高指導者と会談した。そのとき、日本のタンカーが攻撃を受けた。
もちろん首脳会談を行い、和平に少しでも導くことができれば、それは日本の国益に資する。けれども会談する人々は安全だが、中東、サウジアラビアの日本関連施設とそこにいる日本人は戦々恐々としているに違いない。
さて、イランとフ―シー派はイエメン戦争の勝利を確信し、和平攻勢へと出ている。サウジアラビアは少しぐらい不利な条件であっても、無駄な戦争を終結する時期にあるといえよう。さもないと、サウジ全土が炎につつまれてしまう。早急に和平協定を結ぶべきだ。