エクアドルを訪れたときのこと。
目的は実測上世界一背の高いマングローブ林の保全。ぼくの任務はそれに伴う地域開発のプロジェクトを立てるための現地調査だった。
漁村から漁村、カヤーパス族などが住む先住民部落から部落、アマゾン川の支流をモーター付きのボードで下り、上った。
拠点とした小村は、エスメラルダ州のliomones。水路で陸と結ばれた地域だった。
黒人文化の影響が強いところであった。言い伝えでは、奴隷船が難破し、たどり着いたの人々が、村民の先祖だということだった。アフリカ系のマリンバによる音楽、踊りが村の伝統として残っていた。
村の学校、開発委員会、女性委員会、病院などを訪れるうちに、ぼくは仲良くなったメスティーソの夫婦から、
「みてもらいなよ。ここでは医療は分業しているんだから。ぜったいきくよ」
と勧められた。
目の病気、胃腸病、熱帯性の悪寒などは、伝統医療、そのほかは西洋医療の病院という区分けができていた。
といってぼくは病気ではない。
だが試しに伝統医療の診療所を訪れた。
診療所とはいえ、ただの木造のどちらかといと掘っ立て小屋だった。
黒い肌の恰幅のよいおばさんが伝統医だった。
はながらの派手なフリルのついたスカートをはいて、緑のシャツを着ていた。
彼女はぼくの前に熱帯雨林の中から採取したたくさんの葉を並べて、それぞれの効用を述べ始め、そしてぼくの健康状態を調べてくれた。
「Tシャツをとって」
ぼくはいわれるまま上半身裸になった。
伝統医はおまじないのようなアフリカ系の言語で、うにゃうにゃうにゃうにゃ、いいながら、草花が入ったラム酒のビンにちぎった棉を浸し、ぼくの頭、胸、背中にそのひんやりとした棉を聴診器のようにおしつけていった。
「ふーん」
彼女は何を思ったかふんわりとしたスカートのポケットから巻尺をとりだした。
そしてぼくの胸囲を測るのだった。
彼女は巻尺に記しをつけ、
「さあ、今度は深呼吸をして。悪い気、悪魔を吐き出すのよ」
ぼくは言われるるまま深呼吸をした。
「もういちど測るわ」
彼女はまた巻尺で胸囲を測った。
「さっきより減っているわ。悪魔を追い出したからもう大丈夫」
「え? で、なんの病気だったんですか」
「あなたは、心の病気ね」
「心の病気?」
「昨日、きっとびっくりすることがあったはずよ」
うーん、なんだかあたらずもとうからずだが。
昨夜、マングローブ(鶴田さん、ホームレス入門に登場)と飲み屋にいったところ、財布を丸ごと落とし、VISA CARD、運転免許書、そのほかを失い、翌日の今日は朝から家やカード発行会社へあわてて国際電話をかけるという顛末があったのだった。
でも、なんだか釈然としないのだが。
「あたっているじゃないですか」
ぼくが治療される状況を見ていた、マングローブこと鶴田さんは、そういって、へらへらと笑うのだった。
写真はMaria Lionza教団、沐浴する信者たち