ベネズエラの中の日本人(2)

 

 ベネズエラ全土で日系人は13家族だって、大使館の人がいってましたよ」
 そういっていたのはIreneではなかったか。
 
 彼女はぼくの秘書候補として、面接に来たひとりだった。
 ぼくの担当の仕事の経験はなかったが、この程度の仕事ならば十分にこさせそうに思えた。
 しかし不思議だった。大卒がこの田舎の海岸縁の小さな町ではなかなか働かない。
 彼女は政府系の組織に勤めていて給与体系もぼくがいまいる職場よりもよいし、安定した長期の雇用が望めた。

 なぜ、ここにくるのだろうか? その質問をぶつけてみた。

日系企業だってきいてきました。おとうさんが日本人で、3年前に沖縄で仕事中に死んだんです。弟ふたりは日本で働いています。私はカラカスの大使館に毎週一度通って、日本語を勉強しています」
 
 日系人がルーツの日本に関心を持つのは普通だろう。ましてや父は出稼ぎにいって、弟二人も日本にいるのだ。

 私的なことに会話がうつったからか、彼女はぼくに質問をぶつけてきた。

「結婚しているの?」

 ちょっと迷ったが、ありのまま正直に答えた。このようなときはラテンの男性は嘘を言うものだが。

「しているよ」

 彼女の目がはっきりと曇った。面接官としてのぼくに対する関心が急に薄れたのがわかった。
「でも、他に結婚していない若いのが何人かいるよ」

 面接終了後、退社の時間となったので、車で彼女を家のそばまで送った。彼女は母親といっしょに面接にきていた。

「わたしはペルー人ですよ。もう何十年も前にバレンシアにきました。うちではペルー料理、日本料理、ベネズエラ料理を作りますから、今度いらしてください」

 母親のその提案はとても魅力的だった。ともかく現在住んでいるバレンシアでの食生活ときたら、日本の刑務所よりも悪いのは確実である。

 以前、アマゾンの小村で働いていたときは、毎日日本食が食べられたのだが、ここでは自炊である。

 そこで、後日、Ireneに電話をして、とりあえずは何人かで会うことにした。
 独身の男性で、結婚相手を探している男性にはこうつぶやいた。

「どこかで、おれが彼女を襲うよ。そこで、きみがきて、『なにをしているんですか』といっておれを殴るのさ」

「そしたら、彼女は『なによ、あの人、最低、ほっといていきましょう。たすかったわ。あなたのせいで』」
 
 うーん、ばかくさい。

 だが、その独身男性は乗り気だった。彼女、IRENAは彫りの深い美形だったのだから。

 写真はバースティバーティ


 

 ベネズエラ全土で日系人は13家族だって、大使館の人がいってましたよ」
 そういっていたのはIreneではなかったか。
 
 彼女はぼくの秘書候補として、面接に来たひとりだった。
 ぼくの担当の仕事の経験はなかったが、この程度の仕事ならば十分にこさせそうに思えた。
 しかし不思議だった。大卒がこの田舎の海岸縁の小さな町ではなかなか働かない。
 彼女は政府系の組織に勤めていて給与体系もぼくがいまいる職場よりもよいし、安定した長期の雇用が望めた。

 なぜ、ここにくるのだろうか? その質問をぶつけてみた。

日系企業だってきいてきました。おとうさんが日本人で、3年前に沖縄で仕事中に死んだんです。弟ふたりは日本で働いています。私はカラカスの大使館に毎週一度通って、日本語を勉強しています」
 
 日系人がルーツの日本に関心を持つのは普通だろう。ましてや父は出稼ぎにいって、弟二人も日本にいるのだ。

 私的なことに会話がうつったからか、彼女はぼくに質問をぶつけてきた。

「結婚しているの?」

 ちょっと迷ったが、ありのまま正直に答えた。このようなときはラテンの男性は嘘を言うものだが。

「しているよ」

 彼女の目がはっきりと曇った。面接官としてのぼくに対する関心が急に薄れたのがわかった。
「でも、他に結婚していない若いのが何人かいるよ」

 面接終了後、退社の時間となったので、車で彼女を家のそばまで送った。彼女は母親といっしょに面接にきていた。

「わたしはペルー人ですよ。もう何十年も前にバレンシアにきました。うちではペルー料理、日本料理、ベネズエラ料理を作りますから、今度いらしてください」

 母親のその提案はとても魅力的だった。ともかく現在住んでいるバレンシアでの食生活ときたら、日本の刑務所よりも悪いのは確実である。

 以前、アマゾンの小村で働いていたときは、毎日日本食が食べられたのだが、ここでは自炊である。

 そこで、後日、Ireneに電話をして、とりあえずは何人かで会うことにした。
 独身の男性で、結婚相手を探している男性にはこうつぶやいた。

「どこかで、おれが彼女を襲うよ。そこで、きみがきて、『なにをしているんですか』といっておれを殴るのさ」

「そしたら、彼女は『なによ、あの人、最低、ほっといていきましょう。たすかったわ。あなたのせいで』」
 
 うーん、ばかくさい。

 だが、その独身男性は乗り気だった。彼女、IRENAは彫りの深い美形だったのだから。

 写真はバースティバーティ