今日、ホームレスに戻った その9

★原宿で遺体を探す
2.公園で契りを結ぶ
★チンピラホームレス
 奥さんが得意げにいった。
「歩き方が似ているから、そうじゃないかって思ったの」
「うちのは目だけはいいからね。噂をすれば陰で、どうしているかなって二人で話していたんですよ。そろそろ来るんじゃないかって」
「ぼくもお宅にちょっと寄ったんですよ。どちらにいっていたんですか?」
「明日の花火大会の下見に明治公園にいたのよ。冷たい牛乳買ったからよっていってよ」
 おれの選択は間違っていなかった。ビールというわけにはいかないが牛乳のほうが身体にはいい。おれは彼ら夫婦ホームレスとともに、代々木公園へと歩みを進める。
 やはりあっちこっちに知人、友人をもっておくべきだ。飲み物や食べ物をくれる人はいい人にきまっている。
 とりわけ、おれは旧電々公社(NTTの前身)とは縁がある。元電々公社社員の橋本さんと歩きながら、おれはサラリーマンをやっていた時代のことを思い出した。NTTはおれに数年の間仕事を与えてくれたものだ。
 最初はミャンマーの通信事業の調査だが、軍事政権という政治的な足枷が大き過ぎて、投資対象としては難しくプロジェクトは実現しなかった。次はインドだが、三度ほど訪れて全国を行脚し、今はなきサイババにまで会ってお願いしたのが効いたのか、おれの指示通り、NTTは欧米との競争が少ない東側のマドラス(チェンナイ)を投資地域に選び、そこで事業を開始した。
 きっと儲かっているのだろうから、おれにも少しおすそわけがあったいいはずだ。そういえば、イスラム開発銀行からも礼のひとつも来ない。おれがサウジ、トルコ、マレーシアで食あたりや超人的な暑さの中、血の滲むような努力をして、事業計画を作成したのが今イスラム諸国で繁栄しているリース事業の礎だ。
 ちぇ、こんなこといってもせんがない。荒川の溶接工のホームレスも似たことをいっていた。
羽田線の高速、新宿御苑の地下道路、新宿駅西口バスターミナル、大江戸線、千葉のモノレールの高架や工業用水用ダム、江戸線の地下の斎場、大菩薩峠のダム、サウジの石油パイプラインの溶接、最後はアクアラインとあっちこっちで働いたよ。清水建設大成建設間組鹿島建設の下請け業者に呼ばれていったのさ。おれがみんな作ったんだよ。でも、今は年でまったくどこにも呼ばれず、河川敷住まいさ」
 ああ、無名の人間の行きつく先は、河川敷か公園というわけだ。
 橋本さんにしても、大企業のサラリーマンからのホームレス組みなのに、彼は人が出来ているのか、おれや稲村や河川敷ホームレスのように大言壮語をしない。慎ましやかな人柄なのである。―続くー

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★すべて実話
 読者の中で、ホームレスものは想像の産物という疑問があるようですが、すべて実話です。これからチンピラホームレスと元NTTの夫婦ホームレスとの決闘? に巻き込まれます。
★上野公園の最古参ホームレスは?
 ホームレスは移動民で、一か所になかなか留まることができないものです。上野公園では、知り合いの40代の修行僧が10年の滞在を超え、公園内ホームレスとして最古参です。以前は、都内の駅前で托鉢して暮らしていましたが、椎間板ヘルニアで長くていられないそうです。「今は、空き缶。托鉢は一日500円が最高だけど、空き缶は一日3000円ぐらいになるので、ずっと裕福にはなった」とのこと。
★CSテレビ 朝日ニュースター全員解雇?
 来年3月で朝日ニュースターは事実上消滅し、スタッフ他全員解雇となるようです。3月下旬の時点で唯一原発について本当のことを報道できるテレビでした。以前このテレビでは格差社会のパネリストとして呼ばれました。そのとき「履歴書なんか100通出しても面接にたどりつけるのは一つあるかないか」と学生時代から今に至る経験を述べました。すると休憩時間にディレクターやカメラマンが「風樹さんのいうとおりだ」と盛り上がり、握手ぜめにあった記憶があります。まあ、みなさん、今から就職先探しているのでしょうな。