ルーブル美術館と食とテロリスト(4)

 ビール、生ガキ、魚のスープ。サン・ジェルマン・デ・プレのカフェだ。フランスではできるだけ単純な料理を食べることにしている。それでも日本の2倍ほどの値段だ。
 以前、シェフが作ったという、テロにあったシュルリー・エブドの目と鼻の先のホテルで、コース料理を食べたが悲惨だった。フランス料理は、アフリカだ、インドだ、モロッコだ、なんだかだと、世界中の料理をごちゃまぜにした創作料理が多いようだが、どれもまずい。


 本来の食物が放つ精髄を失っている。日本だったら、カレーにしろラーメンにしろ、何か本質があるように思われる。フランスはチョコとかクッキーはおいしいと思うが、食は日本やタイには遠く及ばないのではないか。エアフランスにしても、ルフトハンザに比べてもかなり格落ちだ。
 それでもその店はフランス人でいっぱいで、うまそうに食っているのだから、彼らの舌を疑いたくなる。エスニック(他民族)の扱い方が本質的に間違っているのではないか? とはいえ、10年近くパリに駐在していた友人は、フランスはうまいというのだから、家庭料理とか、知る人ぞ知る店があるのかもしれない。
 
 新鮮な生ガキと魚スープが出てくる。このカフェで関心なのは、頭上の灯色の電熱灯が光とともに熱気を投げかけてくるので、外でも寒くない。それなりに満足のいく料理で腹を満たして、地下鉄にのって、ピカソ美術館に行き、そこからホテルに戻った。疲れ切ってバスタブ(狭い部屋の中にどーんとバスタブがある)に浸かり、少し眠ると、もう夜の9時。
 
 おきて間もなくまだ眠いのだが、腹は減っている。夕飯を食べに外に出た。花金の夜。まずは薄暗い路地を歩いてLe Petit Cambodgeまで歩いてみた。テロリストに銃撃されたレストラン前のホテルの階下のカフェ、そして向いのレストランには人が入っている。でも街路を歩く人はまばらだ。
 ベネズエラだったら、決してこんな街路を夜歩くことはできない。カラカスは世界一危険な町になってしまった。10万人当たり殺人発生率は、119.87である。ぼくが以前住んでいたバレンシアは、72.31で堂々の第7位。

 身に着けた癖でもっと人通りの多い場所へ行こうと、リュプブリック広場につらなる通りまで行くと、フランス風のカフェやレストランはどこも満員だ。腹がなっているが、なかなか店を決めかねる。なにも異国だからというわけではない。日本でだって、ひとりで居酒屋に入るのは気がひける。大勢の客が酒を片手に談笑しているところにぽつりとおひとりさんで飲み食いするのは、なにか辛い。違和感がある。

 結局20分もあちらこちらを歩き続け、最後に暖簾を潜ったのは、アラブ料理屋だった。そこは閑古鳥が鳴いていて、客はひとり、コックを含めて従業員は3人。向かいのカフェは立錐の隙間もないのに。
 主人らしき人間は愛想よくぼくを迎えてくれたのだが(続く)