ZIKA(ジカ熱)か疥癬かそれとも、ベネズエラ病か?(1)

半生肉を食べる  夜、この街で一番というAsadorという肉専門レストランで、テンダーロインステーキを食べて家でソファに寝転がってテレビを見ていた。
 一時間ほど後、突然頭全体が痒くなった。頭皮が痒いのである。それも叫びたくなるほどに。痒―い!
 思わず手で掻き毟った。ついにヒゼンダニが得意の発毛地帯へと進出したかと思い、ぞっとした。あるいは、ジカ熱のせいで免疫力落ちてしまい、肉に過剰反応したアレルギーかもしれないと推測した。

 そう思ったには理由がある。

 Asadorは国の経済が崩壊しつつあるベネズエラを一時忘れさせてくる瀟洒なつくりで、客たちも珍しく大声でわめくことなく上品だった。サクスフォーンで古いジャズを吹く老人もいて、サンフランシスコあたりのそれなりのレストランに入ったような錯覚に陥る。


 けれども、肉はというと、ミディアムを注文したのだが、中は真っ赤に血が滲んでいた。「もっと焼いて」と言おうとしたが、思い留まった。客は三分の二ほどの入りだ。まだ注文をするテーブルもある。もし、皿をボーイに差し出したなら、戻ってくるのは1時間後。まったく冷めているか、あるいは黒焦げになって悲惨な姿を晒す可能性が8割と踏んだ。

 それが社会主義、あるいは亡きチャベスのいっていた「21世紀参加型民主主義」の現実である。無責任ということだ。それは高級レストランだろうが、5つ星ホテルだろうが同じである。

 だから肉アレルギーというよりも半生肉アレルギーを引き起こした可能性と、半生肉の栄養を我が体内から吸収した憎きヒゼンダニの奴らが、その活動を活発化した可能性を考えたのである。

 そう思うのも、数日前から肩から首筋にかけて、湿疹ができ痒くて時に痛かったからである。最初はカーニバル期間に、マルガリート島に保養に出かけて日焼けしたおかげだと思っていた。ベネズエラの常として、日焼け止めのクリームはどこにも売っていない。もう金がなく輸入できないのである。国内の工業は革命の成果で、激減している。

 ひりひりと痛いのが3、4日続いた。普通ならそれぐらいで治るはずが、逆に痒みがまし、どうも発疹ができているようだ。
 
疥癬か!? まずは疑わしいのは、疥癬! とぴーんときた。疥癬などという病名は、日本ではほぼ死語だろう。70代前後の人なら知っているかもしれない。ネットで久しぶりに調べると、スペイン語でではEnfermedad de Pobre(貧乏病)とある。
 うーん、私はこの病に中南米で2度もかかっている。基本的に不潔な環境でビゼンダニが発生し、体を蝕むのである。

 けれども、ホームレスをやっていたときならともかく、今私は貧乏ではない。だが私が留まるこのベネズエラは、現在、産油最貧国である。マルガリート島では政府系の5つ星のホテルに泊まったのだが、シーツは黄ばんだままだった。もちろん替えてくれといっても、いつになっても梨のつぶててだった。だから疥癬の可能性は高い。

 そこで、20代後半と30代のときの疥癬の遠い記憶をたぐってみたのだが(続く)。