レバノンのメイドカフェと日本人人質 安田純平氏 (3)


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見どころ満載のレバノン観光
 ベイルートでは稀な経験ができる。イスラム教寺院で隣のキリスト教の教会の鐘の音を聴くことができるのだ。レバノンが微妙な均衡の中にいることを思わせるとともに、「シリアだって宗教は関係なく仲良くやっていたんだ」というシリア人の言葉から希望も持つことができる。私は、ほとんどの紛争や内戦は、格差、資源、経済、政治が原因であり、宗教はあとづけにすぎないと考えている。さて、ベイルート退屈だが、郊外はまことに見どころが多く、どこも観光客でごったがえしていた。2日間北と東を現地ツアー会社のマイクロバスで観光した。


ベイルート近郊、北部
ビブロス(Byblos)フェニキア人最古の都市国家遺跡。バイブルの名の由来。世界遺産
・ハリッサ(Harrisa) レバノンリオデジャネイロキリスト教徒巡礼地。山頂にマリア
像、眼下に地中海と白い街並みを望む。
・ジェイタ(Jeita) 巨大鍾乳洞、地底湖をボートに乗って進める。

ベッカー高原
・アンジャ(Anjar) イスラムウマイヤ朝の遺跡。最初のカリフ世襲制度による王朝。イスラム国はこの時代に回帰しようとしている。世界遺産
・バールベック(Baalbeck)ローマの超巨大神殿。世界遺産
・クサラ(Ksara)ワイナリー、試飲できる。シャトー・クサラとして日本でも販売。

 1日目のツアー同行者は、サウジアラビア、ジェッダに住むドイツ人生物学者とヨルダン人会計士のカップル、エジプト人夫婦。2日目はイタリア娘、ロンドンに住むフランス系イラン女性の語学学校経営者、パレスチナ出身でヨルダン国籍の夫婦、夫は韓国企業のプロモーター。

 ベッカー高原はレベル3(渡航中止勧告)だが、ベネズエラに比べると、とてつもなく安全だった。とりわけ観光客は欧米の人間も日本人も少ない。だからテロリストが襲っても宣伝にならない。安全な理由のひとつだ。かつては日本赤軍が訓練を行ったが、今はアラブの石油成金たちの避暑地だった。「ここは酒も女もなんでもありさ」、その後知り合ったタクシーの運転手はそういうのだった。


メイドカフェの正体
 帰国後、しばらくして、ベネズエラに住むシリア人の知り合いが里帰りの前に、息子が日本に留学するので東京に立ち寄った。そのとき例の看板のアラビア語を翻訳してもらったのだが、ありゃ、まぁ…メイドカフェと思っていた看板の内容はまったく別。アラビア文字サウジアラビアへの本物のメイド派遣の宣伝広告だったのだ。
「世界中の女性をメイドとして派遣します!健康保険完備、健康診断あり、ベビーシッターあり、看護婦あり、メイド逃亡保険完備」
 ああ、やっぱりアラビア語の知識は不可欠!