先達(せんだっ)てカーテル・ムルと云う見ず知らずの同族が突然大気(だいきえん)を揚(あ)げたので、
ちょっと吃驚(びっくり)した。よくよく聞いて見たら、実は百年前(ぜん)に死んだのだが、ふとした
好奇心からわざと幽霊になって吾輩を驚かせるために、遠い冥土(めいど)から出張したのだそうだ。
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吾輩は100年後に蘇ることをさらりと仄めかしておいた。吾輩が生まれて生きた国がどうなったか見てみたかった。
冥土ではあれこれよからぬ噂も聞いた。吾輩が「このままだと滅びるね」って予言して警告したのに、やっぱり一度滅んでしまった。
最近も日本の大地から立ち上る大爆発の音を立て続けに聞いた。危く滅びるところだった。まったく懲りないニャン。
それというのも、すべて金、金、金、金、金。あの時代、添田 唖蝉坊がうたったとおりだ。
吾輩は冥土に来た新米がこの歌を口ずさんでいるのを聞いてさもありなんと思ったニャン。
我が意を得たりと、閻魔様といっしょに踊り狂ったニャン。
金だ金々 金々金だ
金だ金々 この世は金だ
金だ金だよ 誰が何と言おと
金だ金だよ 黄金万能
泣くも笑うも 金だよ金だ
バカが賢く 見えるも金だ
酒も金なら 女も金だ
神も仏も 坊主も金だ
学者・議員も政治も金だ
金だチップも賞与も金だ
金だコミッションも賄賂も金だ
夫婦・親子の中割く金だ
めったやたらに 輪転機が廻る
金だ金だと うなって廻る
「時事」に「朝日」に「万朝」「二六」
「都」「読売」「夕刊報知」
(金金節より抜粋)
ますます金にまみれた国になったのも、近所に住んでいた金田のような俗物実業家が国中にうようよ生まれて、その輩が国を支配しているからニャン。
猫属だって、捨てられて焼きこそされる下層猫がいれば、金に目の眩んだ人間どもがかってに作ったミヌエット、ソマリ、マンチカン、メイン・クーンとか
の商品・貴族猫は、150万円とか300万円もする。猫格差も凄まじい。
このごろはもっと悪い噂を聞いた。人の言葉や言動をあれこれ調べる法律を作って、今は猫さえニャンニャン大声で鳴けなくなってしまう。
そういえば、此の頃は我ら猫族のライバルの犬さへ吠えるの聞いたことないニャン。
もう吾輩は怒った。死後100年目に蘇ることにしたニャン!